記事カテゴリ:

51 196字の長詩 〜ナポレオンをたたえる〜

 平生欽慕波利翁

 迩來杜門読遺伝

 ...

 平生欽慕す波利翁

 迩来門を杜(と)じ遺伝を読む...


51-zouzan-0908p1.jpg

 佐久間象山が松代で蟄居中(1854〜61年)の徒然に、蘭書(オランダ語の書物)でフランスの英雄、ナポレオン=写真右=の伝記を読んで感銘、長詩=同左=を賦したもので、タイトルは「題那波利翁像」。本欄の46回で扱った「倣岸不遜の書状」では、我が国の先人を随分こき下ろした象山だが、ナポレオンだけは別だった。


 長詩の所蔵者は栗田在住の吉田邦紘さん。吉田さんは1984年に出版された『象山の書』(信濃毎日新聞社刊)を見たところ、「家にある漢詩と同じものが載っている」と驚き、3万4000円するその本を買い求めた。


 かねて知遇を得ていた市川本太郎・信大名誉教授に話したところ、「ぜひ、拝見したい」と言われ、10日間ほど預けて読み方を依頼。解読が終わり、新聞のチラシの裏に読み方と注まで記した一枚の紙が手渡された。西洋の英雄、ナポレオンをたたえた詩だった。


51-zouzan-0908p2.jpg

 当時、市川さんは70代後半。信大を定年退職後、国士舘大学、長野女子短期大学に在籍。『漢詩の作り方と資料』など著書も多い中国文学の専門家。長野漢詩会の講師を約10年間務めた。享年99歳。


 長詩の掛け軸は幅45センチ、縦188センチの絹本で、196字の賦。軸の裏側は絹が擦り切れているが、保存状態は良好だ。


 大意は「この英雄を地下から呼び起こして謀(はかりごと)を同じくし、力を勠(あわ)せて奸賊を駆逐し、終わりに五大州(地球上の五大陸)を捲いて皇朝(我が国の朝廷)に帰せしめ、皇朝をして長く五大州の宗主たらしめん」と説く。


 「欧州統一」というナポレオンの偉業を己(象山)に擬し、鎖国の暗澹を破って開国の曙光を天下に及ぼそうとしたのだろう。

 吉田さんは、箱書きに市川教授の署名を書いてもらわなかったのを、今も悔やんでいる。

 
象山余聞