記事カテゴリ:

06 アリストテレスと知性の働き 〜カメラが「焦点を絞る」に似ている「興味が湧く」〜

 同じ家族と共に寝起きし、いつもの職場で、いつも通りの仕事をこなす、という毎日を過ごしていると、いつの間にか、様々なことにあまり興味を持たなくなっていると感じることはないでしょうか。その理由を考えるヒントをくれるのがアリストテレスです。


 プラトンの弟子であったアリストテレスは、人間の知性の働きの仕組み研究の草分けともいえる人ですが、人間が物事を理解する時の五感(見る、聞く、触れる、嗅ぐ、味わう)と知性の働きの関係の重要性に着目しました。


五感の重要性

 人間の知性は、見たこともなく、正体も分からない、未知な物事を見たり、聞いたり、接したりすると、「何だろう」「なぜだろう」という質問を発します。この質問への答えを探すことが「考える」という行為であり、考えた結果、「あっ、そうか!」と、答えというひらめきを獲得します。しかし、このプロセスは、そもそも五感が様々なデータを目や耳などから取り入れてくれないことには始まりません。アリストテレス以前の学者たちは、「知性が動き始める」ための前提条件としての五感の重要性にまだ気が付いていませんでした。


 「興味が湧く」という表現は、五感が取り入れたデータの中の未知な部分に知性が意識を集中させ、質問を起こし始めるプロセスを意味します。ちょうど、カメラが被写体の一部に焦点を絞って(興味が湧く)、シャッターを切る(質問を起こす)のと似ています。


 赤ちゃんは、見るもの、聞くもの、触るものの全てが未知なるものですから、頭の中は?マークであふれんばかりになっています。しかし、成長とともに、自分を取り囲む日々の物事に慣れてくると、それらについて知性が意識を集中させにくくなり、結果としてあまり質問が発生しないようになってきます。ちょうど、焦点がぼけた写真のようなものです。


 しかし、こんなとき、見知らぬ土地へ旅行したり、今まで触れたことのなかった領域に関する本を読むと、自分の頭がそれ以前に比べてより生き生きと働いている感じを受けたり、いつも通りの日常が新鮮に映ることがありませんか? それは、旅行や読書の経験を通じて注ぎ込まれた新しい五感のデータに知性が刺激されて「何? なぜ?」と質問が生じ、その結果、ありふれたように感じられる日常の中にも、実は様々な未知の物事が潜んでいることに意識が向くようになるからです。


 つまり、いつの間にかぼけてしまっていた焦点を絞る知性の力が再び活性化されるためです。というわけですから、この秋にはぜひ、旅行か本を一冊!

(2012年10月27日号掲載)