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42 「東京ジョー」(1949年) 〜世界一有名な邦人スターは

 Q 世界で一番有名な日本人映画スターは誰ですか?


 A 英国の映画雑誌が「The Sight & Sound Greatest Films poll」という名で10年に1度、これまでの映画からベストテンを投票で選んでいます。今年の結果は、『東京物語』が批評家投票で3位(1位は『めまい』、2位は『市民ケーン』)、監督投票では1位です。


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 2002年の投票では、監督部門で『羅生門』と『七人の侍』の2本が9位にランクされています。1992年の調査でも、この3本がランクインしていますから、この30年ほどの間、世界で最も有名な日本映画は『東京物語』と『羅生門』『七人の侍』でほぼ決まりでしょう。


 しかし、これらの作品の出演者が一番有名とはいきません。映画史的な面からの知名度では早川雪洲の方が上かもしれません。


 早川雪洲(1889〜1973)は1910年代、アメリカ映画界のセックス・シンボルと称されるほどの大人気スターでした。彼が人気を集めた冷酷な日本人のイメージが一役買ったともいわれる日本人排斥が激しさを増す米国を去り、欧州を中心に活躍。原節子主演の日独合作映画『新しき土』などに出演します。


 日米開戦後はパリにいてレジスタンスに協力したこともあり戦後アメリカから非難を浴びることはありませんでした。やがてカムバックし、57年の『戦場にかける橋』でアカデミー賞候補となります。


 きょうご紹介する作品は、ハンフリー・ボガートが映画から離れていた雪洲を探し出して復帰を促した『東京ジョー』(1949年)。名画とは言い難いのですが、いろいろな意味で興味深い作品です。


 物語は、カサブランカをアメリカ占領下の東京に置き換え、ボガート演じる主人公が、戦争中やむなく東京ローズの一人となった昔の恋人と娘を救うべく、自己犠牲的な任務に向かうといったもの。アメリカで撮影され、所々日本で撮影した風景が挿入されています。


 雪洲の悪役ぶりは、若いころの輝きこそありませんが、長年背負わされてきた西洋人の目から見たステレオタイプの日本人像を、あえて楽しみながら演じているかのような不思議な迫力があります。


 英語のせりふは字幕では正確に伝わっていませんが、日本の旧体制を悪、アメリカが解放した民衆を被害者と説明するこの映画は、日米和解の意図もあったのでしょうが、日本人にはかなりの違和感があり、日本で公開はされませんでした。


 偏見とステレオタイプと戦ってきた日本人俳優たちの苦悩、また戦後の日米関係を見詰め直すのに役立つ一本です。

(2012年10月6日号掲載)


=写真=『東京ジョー』発売・販売/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


 
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