記事カテゴリ:

08 槍ヶ岳〜黒部五郎小舎 〜まるで「天上の楽園」 山奥で日本そばも〜

08-alps-1110p.jpg

 8月2日。前半のヤマ場を越え、きょうはのんびりと気持ちのよい歩行を楽しめるコースだ。槍ケ岳の肩から西へ折れ、西鎌尾根の稜線へ入る。千丈沢乗越まではジグザグにガレ場を下り、しばらく進むと樅沢(もみさわ)岳(2755メートル)だ。


 ここから振り返ると、槍ケ岳を中心にして右手に大喰岳・南岳・大キレット・北穂高岳、左手に北鎌尾根がパノラマのように見える。自分の縦走してきた道が、はるか遠くにかすんで見えるのも感慨深いものだ。


 ひと下りすると、双六小屋に着く。周りには雪渓が多く水が豊富だ。双六岳(2860メートル)は「花の百名山」で知られる。まるでアルプスの楽園のような所だ。この小屋は各ルートにつながる分岐点で、新穂高温泉からの小池新道、裏銀座コース、槍ケ岳へ続く西鎌尾根、黒部五郎を経由して富山へ下るダイヤモンドルート、笠ケ岳につながる稜線と、人気ルートの交差点だ。


 双六小屋で大休止し、三俣山荘へ向かう。山荘のしばらく手前で左へ分かれ、三俣蓮華岳(2841メートル)へ登る。頂上付近は開けた稜線となっていて、見晴らしが良い。


08-alps-1110m.jpg

 頂上から少し戻って立山連峰コースに入り、黒部五郎岳(2840メートル)へ向かう。この縦走コースは、大きく分けて三俣蓮華岳から太郎兵衛平までの黒部エリア、太郎兵衛平から立山までの五色ケ原エリア、そして剱・立山連峰の立山エリアの3つがある。


 きょう歩く黒部エリアは、特に高山植物が楽しめる。道の両脇には、シナノキンバイ、大イワカガミ、ハクサンイチゲ、チングルマ、チシマギキョウなどが群落となって咲いている。


 三俣蓮華岳からしばらく稜線を下って西へ折れ、樹林帯に入る。急な樹林帯をこんなに下ってもいいのかなと思っていると、突然前が開けて黒部五郎小舎が現れる。黒部五郎岳のカールの底の黒部源流に位置する情緒あふれる赤い屋根の山小屋だ。


 周辺は池塘(ちとう)も散在する壮大な草原でまるで「天上の楽園」のようだ。雪解け水がとうとうと流れ、ビール、ジュース、リンゴを掛け流しで冷やしている。ここから見る西面の壮大なカールの上に立つ黒部五郎岳は、岩で構成された特異な山容で、このままここに住み着きたいくらいに美しい。


 黒部源流の雪解け水で冷やしたビールがことのほかおいしかった。館内に飾ってあった紅葉の写真もきれいで、9月後半には素晴らしい景色が楽しめるそうだ。


 夕食には天ぷらがたっぷり出た。アザミ、サツマイモ、ゴボウなど季節の野菜の揚げたてだ。さらに、こんな山奥で意外なものも出てきた。それは日本そばで、特にそば好きの私にはうれしいメニューである。味の方は、打ちたての戸隠そばのようなわけにはいかないけれど、日本人にとっては癒やされる味だ。これも豊富な雪解水が得られる小屋でなければ出せないメニューだと思う。

(2012年11月10日号掲載)


=写真=振り返ると、槍ケ岳から北鎌尾根を遠望


 
北アルプス全山単独縦走