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10 薬師岳山荘〜五色ケ原山荘 〜重量感ある薬師岳 楽園の五色ケ原へ〜

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 8月4日、きょうも晴天。5時半に薬師岳山荘を出発した。この山荘は稜線上にあるので水は貴重品。天水を集めているが、このところ雨がほとんど降っていないので、販売用の天水は「ない」とのこと。仕方なくペットボトルの水を買う。なんと500ccで500円。前日の太郎平小屋で水が掛け流しになっていたのと、なんたる違い!


 6時半に薬師岳頂上(2926メートル)に着く。「重量感あるドッシリした山容は、北アルプス中随一である。ただ大きいだけではない。厳とした気品もそなえている」と、深田久弥が『日本百名山』の中で書いている。本峰山頂には小屋のような大きな祠があり、薬師如来と富山県の有峰集落の人々が奉じた鉄板造りの赤錆びた槍の穂先が数本祀られている。


 薬師岳を信仰していた有峰の集落は、今はダムの湖底に沈んでいる。この槍の穂先を見ると、山と山麓との関わり合いの盛衰が感じられる。


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 山頂の東側には金作谷カールと中央カール、そして南稜カールと3つの氷河遺跡があり、特別天然記念物に指定されている。山頂も本峰(2926メートル)、北峰(2900メートル)、東峰(2651メートル)と3つの頂上を持つ珍しい山だ。本峰頂上で休憩していると、後からやって来た男性が「やっと憧れの山に登れた」と仲間と笑顔で話していたくらい堂々とした大きな山だ。


 稜線沿いに北薬師岳を越え、標高差600メートルを下りスゴ乗越に出る。稜線のV字の一番低い底を一般的には「コル」と呼ぶが、富山では「乗越(のっこし)」という言葉を使っている。同じ富山でも、劔岳の方では「窓」と言う。


 スゴ乗越からスゴノ頭に登り、さらに越中沢岳(2591メートル)へ登るが、また越中沢乗越へ下り、今度は鳶(とんび)山(2616メートル)へ登る。標高差320〜350メートルを何回か繰り返し登り降りし、体力的に非常にきつい。


 鳶山を越すと稜線はなだらかな丘陵地に変わり、お花畑が広がる。コバイケイソウ、ハクサンコザクラなどが咲き乱れ、閑静な草原帯に池塘(ちとう)が点在する「天空の楽園」のような場所だ。間もなく、遠く草原の中に赤い屋根の五色ケ原山荘が見えてくる。そこに通じる登山道もはっきりと見渡せ、疲れてはいるがルンルン気分で緩い下り道を歩く。


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 16時半に山荘に到着した。前日、五色ケ原山荘では風呂に入れるとの情報を聞いていたので受付で尋ねると、入浴のタイムリミットは16時とのこと。30分遅れでアウトだった。残念! 少し前に私を追い越していった若い人の、湯上がりのさっぱりした笑顔が憎らしかった。山荘は周り中、雪渓に囲まれていて水が豊富だ。こんな高山で風呂に入れるぜいたくを味わえる数少ない山荘だ。

(2012年11月24日号掲載)


=写真1=「天空の楽園」のような五色ケ原

=写真3=堂々とした山容の薬師岳

 
北アルプス全山単独縦走