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16 水晶小屋〜烏帽子小屋 〜残雪にハイマツの緑登山者少ない裏銀座〜

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 8月9日。晴天に恵まれ、5時45分に水晶小屋を出発する。


 この小屋は、昔は訪れる登山者が少なかったので、収容人数は30人とこぢんまりしている。現在は百名山ブームで、いつもにぎわっている。私は遅く到着する予定だったので、前日に電話で予約を入れておいた。狭い小屋なので、ザックは天井の梁のフックにぶら下げるようになっている。さらに満員の場合は、食堂兼居間も寝室に使うという。戦国時代の武将・佐々成政の埋蔵金が隠されているという伝説や黒部の山賊の話で知られる場所でもある。


 昨夜の夕食は、かつて山小屋の定番メニューだったカレーライス。今回の縦走では唯一の提供で懐かしかった。しかも味は食材をふんだんに使った一級品で、何杯でもお代わり自由なのがうれしい。


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 朝日を浴びながら、裏銀座ルートで最も標高の高い野口五郎岳(2924メートル)に向かう。野口五郎の語源は、大町市野口から見える山で、岩がゴロゴロしているから、という。ここから三ツ岳(2845メートル)、烏帽子岳(2628メートル)へと広く緩やかな稜線が続き、残雪が残るカールとハイマツの緑がまぶしい。


 野口五郎小屋は白い砂利質のガレキの上に青いトタン屋根の木造2階建てで、屋根の上に岩がゴロゴロと載せてあり、風の強い稜線に位置する過酷な環境であることを思わせる。小屋の前を通過して三ツ岳へ向かう。登山道の周辺には、コマクサ、チシマギキョウ、イワウメなどの高山植物が点々と咲いている。


 裏銀座コースはよく表銀座コースと対比されるが、両方とも360度の展望を楽しめる。一面の白砂にハイマツの緑が映え、最後は槍ケ岳へ通じる快適なコースだ。大きな違いは登山者の数で、裏銀座は表銀座の1〜2割でしかない。その分、静かな山歩きを楽しみたい登山者には魅力的だ。


 きょうはきのうのコースタイムの約半分で、のんびりと天上の漫歩を楽しみ、早々と烏帽子小屋に着いた。


 烏帽子岳は北アルプスのほぼ中心に位置する山で、黒部ダム越しに立山、剣岳を望めるほか、北方に鹿島槍ケ岳など後立山連峰の山々、さらに餓鬼岳や燕岳など南部の山々まで一望でき、北アルプスの真ん中にいることが実感できる。


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 烏帽子小屋には1961(昭和36)年8月7日に泊まった。当時は大学1年生で、裏銀座コースから槍ケ岳・北穂・奥穂・前穂へ登り、岳沢を上高地に下った。その当時の面影を残す貴重な小屋だ。各地の山小屋が新改築されている中で、増築はされているが、50年前の記憶をよみがえらせてくれる小屋は珍しい。もちろん、食堂、休憩スペース、乾燥室などの設備はしっかりしていて、派手さはないが安心できる山小屋だ。

(2013年1月19日号掲載)


=写真=昔の山小屋の面影が残る烏帽子小屋

 
北アルプス全山単独縦走