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17 烏帽子小屋〜船窪小屋 〜岩峰巻き花の別天地 ランプのぬくもりも〜

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 8月10日、晴れ。烏帽子小屋を5時20分に出発する。間もなく前方の烏帽子のような鋭い岩峰に近づくが、頂に登るには鎖のある岩場をよじ登り、山頂標が立っている岩場から、さらに滑落の危険のある岩場の上が本当の頂上とのこと。きょうの目的地、船窪小屋までは9時間の日程なので岩峰は巻くことにする。


 しばらくすると、花の別天地が現れた。「四十八池」「烏帽子田圃(たんぼ)」と呼ばれる様々な池塘(ちとう)が多く点在する天上の楽園である。ゆっくりと時間をかけ、散策するように辺りを見回しながら歩いた。その先の南沢岳(2625メートル)、不動岳(2601メートル)などを訪れる岳人は多くはない。


 それは素晴らしい、玄人好みの静かな稜線だ。右に左に屈曲する尾根。見上げるような急登、登り切ったと思ったらぐーんと急下降。尾根の右側に続く崩壊地。今でも動いているように土砂や無数の木々が崩れ落ちている登山道を人の気配を感じることなく歩けた。


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 続いて船窪岳(2459メートル)を越えて船窪小屋に14時40分に到着した。この小屋は人気コースから外れ、北アルプスで1、2番目に小さい山小屋だ。電気がなく、ランプの明かりがシンボルとなっている小屋は北アルプスで数カ所あるが、自家発電と併用している小屋が多い。船窪小屋はランプのみのスローライフだ。冷蔵庫がないので、野菜は石室に入れたり、乾燥させて料理している。


 夕食は小屋の前のベランダで、霧のかかった夕暮れの剣岳を見ながら、ゆっくりとビールを飲み、天上の晩餐を楽しんだ。夕食前に小屋の「お母さん」こと、松沢寿子さんの手料理の解説がある。この小屋の料理と昔ながらの雰囲気が人気で、山登りより滞在することを目的として訪れる船窪小屋ファンも多いという。


 17時からの夕食が終わり、薄暮がやってくる19時からランプのともった囲炉裏の居間で懇親会が始まる。ネパールからヒマラヤのオフシーズンに毎年来日して、この小屋に滞在しているシェルパのボス(何回もエベレストに登頂している)がネパールの民謡を歌い、上手な日本語で山の経験談を語る。


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 「お父さん」こと、オーナーの松沢宗洋さんが『黒部の太陽』とまた違ったトンネル掘りの実体験を解説。常連客が司会をしたり、皆で山の歌を歌ったり、この小屋独自のアットホームな時間を楽しめる。


 船窪小屋にはボランティアで年に数回登って来て、シーズンの開閉時に手伝いをしたり、周辺の登山道を整備、日々の配膳や調理の手伝いをする「ファンの会」がある。北アルプスでも特異な素晴らしいぬくもりが感じられ、あっという間に消灯時間を迎えてしまう。

(2013年1月26日号掲載)


=写真1=鋭い岩峰がそびえ立つ烏帽子岳

=写真2=烏帽子岳北の四十八池

 
北アルプス全山単独縦走