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20 冷池山荘〜キレット小屋 〜絵になる名峰・鹿島槍 雨の中キレット越え〜

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 8月13日。曇りのち雨。お盆に入るので2〜3日前から登山者の姿がめっきり減った。きのう泊めてもらった冷池(つめたいけ)山荘は後立山連峰の名峰・鹿島槍ケ岳に最も近い山荘で、大きな窓があり自然木で建築されている。天井から壁板、そしてトイレの腰板まで全て天然木を使用している。


 一帯の稜線に連なる3つの山小屋、新越(しんこし)山荘、種池山荘、冷池山荘は、大町市の扇沢から種池まで上る柏原新道を7年かけて造った一人のオーナーが経営している。登山道の管理も3つの山荘がそれぞれ分担して常時整備しているので、快適な道となっている。


 冷池山荘を出発しておよそ2時間で鹿島槍ケ岳南峰(2889メートル)に着く。種池山荘から爺ケ岳を経て鹿島槍までの稜線は高山植物が豊富で種類も多い。後立山連峰の盟主といわれる鹿島槍の双耳峰は美しく、富山県側からより長野県側から見た姿は絵になるし、写真にもなる。私は小川村成就から見る、雪をかぶった北槍と南槍の両峰がキリッと立ち上がる、品のいい美しさがたまらなく好きだ。


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 平家の落ち武者が隠れ住んだという伝説のあるカクネ里の上部にある北壁は、国内有数の岩壁だ。約700メートルの高さで、北峰の頂上までそそり立つ。積雪期初登はん争いは登山史に一時代を築いた。「冬の鹿島槍は風雪が厳しい分だけ穂高より難しい」といわれ、遭難件数も死者数も後立山連峰で最も多く、全体の3割近くを占める。


 雪解けの季節になると山肌に姿を現す「雪形」は、麓で暮らす人にとって季節の訪れや農作業の目安となる大事な使者である。鹿島槍ケ岳には、南峰の下に飛び立たんとする「鶴」、南峰と北峰の中間にその鶴に襲いかかろうとする「獅子」が現れる。安曇の人々の暮らしと深く結び付き、現れる時季や微妙な形の違いによって農事の指針となっている。


 北峰を過ぎるころから雲行きが怪しくなってきた。天気予報どおり空は黒さを増し、行く先の稜線に霧がかかり、雨具や手袋をしても寒さを感ずる状況になってきた。これから気温が上がる時刻なのに、かえって下がっていく様子だ。


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 鹿島槍ケ岳-五竜岳(2814メートル)の稜線は切れ落ちた尾根のアップダウンが連続する。その間に八峰(やつみね)キレットがある=写真下。北アルプス有数の難所の一つで、切り立った岩壁に鎖、はしごが連続するが距離が短いので、その点は楽だ。しかし手袋の中にも雨が染み、周りは何も見えず滑りやすい岩と金属の冷たさを感じながら慎重に歩く。


 キレットを通過すると、稜線のV字形の鞍部に建つキレット小屋に着いた。鞍部は非常に狭く、山荘前が縦走路に指定されているほど敷地が限られている。まだ午前中だが雨も強くなってきたので、きょうはこの小屋に泊まることにした。

(2013年2月16日号掲載)


=写真上=双耳峰が美しい鹿島槍ケ岳

 
北アルプス全山単独縦走