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65 命のメッセージ

 頂いた便りの中から

 年を取ると年末に「喪中につき...」というはがきを頂くことが多くなる。そのことを詠む歌や句も多い。その中で老境に至ったことを嘆き淋しく...だけでなく、それはそれ、避けられない事実として受け入れ、通過点として捉えている人もいる。そんな人は例外なく愚痴がなく、前向きだ。


 便りを頂いた中から-。満91歳で「しゃごじ(社宮司)だより」を刊行しておられる小口凪海さん。川柳もたしなまれ、朝日新聞に載った2句。


・目と指とキイ折り合わず文字が化け

・父に似ぬぶきっちょのまま老いにけり


 畑を耕し老妻をいたわり、ご立派というほかはない。畏れをなしている御仁のお一人。


 八十路を過ぎて老々介護と言いながら「何とか現状を保てるようにはげむつもり...」という池田久子さん。屈託がない。俳句をたしなまれ、その中から。


・淡雪(あわゆき)や擬宝珠(ぎぼし)に凭(よ)りし日は遠く

・かくれんぼ夢のつづきにツワの花

・雷鳴や少年二人吼えて去る


 来し方を思い、目の前のことにも。「擬宝珠に凭りし」からは温かさと哀しさと、そしてそこに待つ喜びまでが伝わってくる。


 「花も実もない浪費の一年でした。残酷な老化と一人戦い続けております」と言いながら、どこか明るい田村千代子さん。そして「老人は、疲れている老人と、疲れを知らぬ老人に分けられるそうです」と添え、「疲れている人は堂々と疲れていていいそうです。私には、ホオッとさせてもらえる言葉です」と結ぶ。


読んだものの中から

 ○...以上つまるところ、「長生きしたければ、頭と足を使いなさい」ということである。(後藤 眞)


 ○"承知している"という人が多かろうと思うが、あなたにとって「死とは」と問われてアインシュタイン博士は「死とは...モーツァルトを聴けなくなることだ」と答えたという。初めてそれを知ったときの、ショックとも感動とも名状し難い思いが、その後いかほどのしかかり頭をかすめてきたことか。その都度、自らの稚(おさな)さと一介の凡夫であることを、完膚(かんぷ)なきまでに知らされてきたのだった。(柳 遼介)


 ○...ある者は死後の世界で先に逝った親や友人に会えると信じ、またあるものは極楽浄土を信じる。人は最終的にはそれぞれの孤独な幻想にすがって死を迎えるしかない。(谷川俊太郎)


 ○わたしは、人は生きてきたように死ぬ、という言葉が好きだ。人は、生きてきたように、死も、また、そうやって死んでいく、と思いたい。(灰谷健次郎)


 ○...宗教界は平和のために何をしたか。...戦争に協力した。殺生を最大の罪とする宗教が、国策である「聖戦」の旗の下には無力であった。...インドのガンジーは英国植民地の圧制に抗し、不殺生・非暴力・不服従運動を展開し、ついに独立を勝ち取った。宗教家はガンジーの魂に学ぶべきだ。    (朝日新聞)


 ○...現代社会は私たちから死を遠ざけた。死を美化した戦争の反動、核家族化や都市化が看取(みと)りや死に触れる機会を奪った。(カール・ベッカー)


 ○柳田国男との出会いは不意にやってきた。...柳田の『桃太郎の誕生』が私の方向を決定した。日本の想像力が奔放なまでに横溢しているその本を一気に読み終わったとき、日本人の創造力への信頼がよみがえり、満ち潮のようにゆっくりと、日本人としての幸福感が胸をひたすのをおぼえた。(谷川健一)


 一段高みに上れたという悦び

 様々な人生がある。それぞれに違って生き、違って死ぬよりほかはないのだ。自らの努力と本からでも動物からでもいい。他からの触発でもいい。幾分なりとも高みに上れたという悦びを、時々味わいながら末期を迎えられたら、以って瞑すべしではないか。

(2013年2月2日号掲載)

 
美しい晩年