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17 縄張りの研究 〜ホオジロ調査し解明内地留学の契機に〜

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 小田切中学の教師時代にホオジロを調査した続きです。あの時に出会った小さなホオジロが、志賀高原で信大助手という名目で雑用に明け暮れる日々から、外の広い世界に私を連れ出してくれるきっかけになったのです。


 「コバルト」と名付けた雄と、パートナーの「シマ」には、特に感謝しています。名前の由来は足環の色。フィールド調査ではまず、対象個体を識別するための足環を付けるのですが、私は1羽の雄にコバルト色、雌に青い縞柄の足環を付けました。


 私が調査地に定めたのは約150メートル四方の畑地です。そこに6組のつがいがすんでいました。自由に大空を飛び回る鳥の姿に憧れを抱く人には少々がっかりかもしれませんが、生息地でのホオジロは、お隣さんとけん制し合う案外窮屈な暮らしぶりなのです。縄張りがあるからです。


撃退する雄の勇姿目撃

 ただ、縄張りの実態が解明されていたわけではありません。まさに縄を張ったようにピンとした境界があるのか。あるとすれば何がそれを決めるのか。私は、たまたまいつもより近づいて来た隣の雄を必死で追い返す行動に出たコバルトの勇姿を目撃したことで、縄張りとは何かを研究したくなりました。


 ホオジロの場合、縄張りを守るのは雄ですから、雄同士が出合った際の行動を観察しては、すべて地図上に記録しました。根気のいる作業を続けたおかげで、興味深い結果を得ることができました。


 どうやら雄の行動範囲は、同心円状に4つの地帯に分けられるようでした。まんじゅうを想像してみてください。中心のあんこ部分は侵入者のないエリアです。次が、コバルトが威嚇するだけで相手が逃げ帰る地帯。そして次が闘争地帯です。ここに入ると双方本気の闘いになってしまうのですが、それはめったに起きません。頻繁に闘ってばかりいたのでは、食事を取る時間もままなりませんし、けがをするかもしれません。


 そこで、実際の闘争行動の代わりに「さえずり」で縄張りを主張しているらしいことも分かってきました。一番外側はコバルトがさっさと逃げ帰る地帯で、縄張り外と解釈できました。


 ホオジロの行動を微に入り細に入り観察して縄張りの構造を明らかにしたのですから、なかなかの成果ではありますが、まだ好事(こうず)の域を出ないというか、学問としては物足りません。それでも、生態学会の全国大会で口頭発表をして注目を浴びたり、一人で調査に励んでいる信州の田舎教師を引き立ててやろうということか、著名な学者が何かとお声を掛けてくださるようになりました。


羽田先生の計らいで

 ホオジロの研究は、柳町中学に転勤してから千曲川の河川敷を新たな調査地にして続けました。4年間通い詰め、それまで「狂い鳴き」ともいわれ、重要視されていなかった秋のさえずりが、実は春の縄張りの準備だったことなど多くの新知見を得ることができました。


 以上、2つの調査地でのデータを基に私は学位論文を書くことにして、助手3年目に京都大学へ内地留学することになりました。もちろん羽田先生の計らいです。私を跡継ぎにさせようとの気持ちだったと思います。


 ところが、その年に大阪市立大理学部講師の公募がありました。それに応募して内地留学を途中でやめたら、骨を折ってくださった羽田先生に大変な迷惑をかけます。怒られるのを覚悟で言いだすまでには相当の勇気がいりました。

(聞き書き・北原広子)

(2013年3月2日号掲載)


=写真=「コバルト」と「シマ」の愛の巣

 
山岸哲さん