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19 国際舞台 〜英国でモズ研究発表 著名な博士から質問〜

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 大阪市立大学付近の公園でモズの調査を始めて約2年。そこまでの成果を論文や本で発表できるようになったころ、思いがけない国際舞台にデビューすることになりました。1981(昭和56)年の国際行動学会議への参加です。


 英国のオックスフォード大学を会場に、世界中から第一線の動物学者が集まって最新の知見を発表する場です。私もモズの研究を発表することになりました。当時この会議は、各国ごとに割り当てた人数だけを招待するのが特徴で、日本の枠はたったの10人。参加は非常に名誉なことです。


日高先生がお誘い

 誘ってくださったのは、京都大学の日高敏隆先生です。一般向けの面白い本もたくさん書かれているので、ご存じの方も多いでしょう。「刷り込み」でも有名なノーベル賞受賞学者のローレンツの翻訳をはじめ、ヨーロッパの動物行動学をいち早く紹介。日本の動物行動学の第一人者といって過言ではありません。


 先生は何カ国語も堪能で、ユーモアあふれる話と洗練されたマナーで人を引き付け、特に女性に人気が高かったことでも有名です。私がまだ理科教師だった時から目をかけてくださったのも先生で、ホオジロに続くモズの研究も評価してくださったのです。


 オックスフォードの晴れ舞台に出かける期待感は高かったはずですが、あの時の思い出として真っ先に浮かんでくるのは、英語ができないのに空港で迷ったらどうしようという不安感です。高校時代、今西錦司の猿学に憧れ、アフリカで猿を見たいと漠然と夢見た以外で外国行きを考えたことはなく、パスポートを持つのも初めてでした。


 何とか行き着いた会場で、私は「モズのつがいの形成過程」と題し、モズは徹底した一夫一妻の嫁入り婚であることや、雌が嫁ぎ先を選ぶ際の決め手は雄そのものの質と縄張りの質であるらしいことなどを、ポスター掲示による方式で発表しました。


 「英語の分からないおっちゃんがいるな」と思われているらしい雰囲気の中でも、いくつか質問を受け、シジュウカラの研究で有名なオックスフォード大学のクレブス博士からは「調査は大学院生と一緒に行ったのか」と聞かれました。


 私がいつも独力だと答えると、「こんなデータを取る調査をして大学に通えるのか」と突っ込まれたのには苦笑しました。約70ヘクタールの調査地の200羽以上のモズに片っ端から足環を付け、朝3時起きで公園に出勤。終日観察の日は、モズから目を離すことなく、また秒単位で行動を記録するための右手を使うことなく食べられる3食分の食料持参で10時間の観察。そこまでしてこそ収集できるデータです。博士の疑問ももっともでした。


動物行動学会設立

 私の研究室は、日本に一つだけの動物社会学研究室ですから、目的意識のはっきりした学生ばかりです。手取り足取り教えてもらおうという学生相手でないことで楽をさせてもらいました。また、年齢は一人前でも大学教員としては新米の私には、学内の会議などが回ってこなかったのも調査には幸いでした。


 国際舞台を経験したことで私の志向は国際的になり、学生にも英語論文の執筆を奨励するようになりましたし、人脈が海外に広がったことは後に自分が会議のホスト側になった際に役立ちました。日高先生を初代会長に「日本動物行動学会」を立ち上げたのも成果です。大阪市大に22年勤務後、私は京大に移りますが、それは日高先生の後任としてでした。

(聞き書き・北原広子)

(2013年3月16日号掲載)


=写真=初舞台の国際学会で発表


 
山岸哲さん