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21 アフリカへ 〜スキューバを特訓 湖で魚 空で鳥観察〜

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 アフリカに行きたいという夢は、私の心の中でずっとくすぶり続けていましたが、遂にチャンスがめぐってきました。恩師の川那部浩哉先生が、アフリカ東部にあるタンガニーカ湖の魚を研究するための調査チームを組もうとしていたのです。


 研究対象が魚だからと、魚の専門家で固めては視野が広がらないというのが先生のお考えです。私も参加を希望したところ、必須条件がスキューバダイビング。鳥の研究ではまず不要な技術で私も未経験。愛媛県の宇和海で合宿して特訓を受けることになりました。


 タンガニーカ湖で

 指導は、現在愛媛大学の学長をされている魚類学者の柳澤康信先生で、調査の現地隊長でもありました。文部省海外学術調査で事故があったら大変ですから、教える方も教わる側も真剣。44歳で初挑戦の私には苦しい訓練でしたが、何が何でもアフリカへ行きたい一心で乗り切りました。


 九州ほどの面積で、世界で5番目に大きなタンガニーカ湖は複数の国に接していますが、私たちの拠点は当時ザイール、今のコンゴでした。期間は半年。大学にしたら、着任早々から公園のモズ調査に熱中していた私が、次にアフリカの湖に潜っていても大きな違いではなかったかもしれませんが、半年間の調査を可能にする職場はそう多くないと思います。


 川那部先生からは「月曜から金曜までは魚の調査を」と言い渡されました。ということは、土・日曜は鳥の調査ができるということ。中学教師時代から鳥を追うのは週末だった私にとっては、本来のスタイルに戻っただけです。平日はスキューバを担いで湖に潜り、週末は空を見上げて鳥を観察しました。


 早速見つけたのはネズミドリといって、鳥にしては珍しく葉っぱを主食にする種です。葉っぱだけでは栄養が少ないので、この鳥は元気がありません。チュウチュウとネズミのように鳴きながら、30分も餌をあさると疲れて寝てしまう。その時、体温低下を防ぐため身を寄せ合いボール状になって眠ります。あまり知られていなかった生態を、論文にして発表しました。


 マダガスカルにも

 魚の調査をするうちに、やはり自分の本分である鳥の調査を本格的に行いたいと考え、文部省に申請し、マダガスカル島の調査が実現しました。1989年のことで、鳥の海外学術調査としては日本初だったと思います。この研究は当時の若い隊員に引き継がれ、現在に至っています。


 研究のテーマは「適応放散」です。生物の形態や習性が、生活空間に適応するよう変異する現象のことで、例えばこの島にはキツツキがいないので、別の生物がキツツキの生活空間を占めると考えるわけです。島に固有のアイアイという原始的な猿の仲間がいますが、針金のような指で虫を捕らえることからキツツキの代理人との説もありました。


 私たちが調査対象にしたのはオオハシモズ科に属する鳥で、当時14種と考えられていました。同じ起源から分化したとは信じ難いほどに大きさも形も異なるのですが、その中の長く湾曲したクチバシを持つハシナガオオハシモズが、本当のキツツキの代理人であることを突き止めました。


 適応放散の研究は、学問分野としては「進化生態学」になります。結局は「適応度の増大」という結論になる行動生態学に飽きてこちらに移ったのですから、中学で「根気がない」と通知表に書いた先生の評価は的を射ていたのかもしれません。 

(聞き書き・北原広子)

(2013年3月30日号掲載)


=写真=タンガニーカ湖で潜水した際に


 
山岸哲さん