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61 「駒寅之一生」 〜珍しい冊子に出合う〜

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 2月初旬、『象山偽筆大家駒寅之一生』という珍しい冊子=写真右=に出合った。読書家の畏友が紹介してくれたもので、副題は「不遇之奇才中村寅吉」。著者は塚原健二郎。県立長野図書館の所蔵です。


 象山をはじめ児玉果亭、葛飾北斎、谷文兆などの作品を描けば、当代匹敵する者なし-といわれた偽物師の駒寅。本書は明治、大正時代の"画商暴露史"でもある。


 この書籍を基に"駒寅象山"の話が広がり、本欄でも過去に2回取り上げた。


 「文久3(1863)年の秋の夕暮れ。松代西木町の古道具屋、駒屋の当主・常吉が土間に打ち水をしているところに、ひょっこり顔を出したのは近頃、江戸から帰ったばかりの象山佐久間修理」。ページを開くと、こんな調子で始まる。


 修理は読書に飽きると、よく駒屋に現れ、古画や骨董品を漁っていた。「先生、お散歩ですか」「うむ、ちょっと、丁字屋まで唐紙を買いに行くところだ」と駒屋との掛け合いが続く。当時、駒寅は15歳だが、子どもの時から書が上手で、兄の下で店番をしながら、書聖として仰がれる王羲之(おうぎし)の作品が好きで、書を習っていた。


 この時、町内の小出某から表具を依頼された象山の書が同店にあり、駒寅はそれを模写し、偽物作りに"力"をつけた。そんなエピソードが、同書には随所にある。


 調べてみると、本の所有者は「市内北石堂町、乙部泉三郎」とある。寄贈者は埼玉県志木市在住、乙部洋一さん(88)。洋一さんの父親、泉三郎さんは1977(昭和52)年に他界。泉三郎さんの夫人のエイさんが県立図書館に持ち込んだものと判明した。


 泉三郎さんは東京・日本橋の生まれ。29(昭和4)年、同図書館の創立に際して司書となり、32(昭和7)年に館長を拝命。49年まで館長を務めた。夫人の寄贈がなかったら、駒寅の存在自体、世間に伝わらなかったかもしれない。

(2013年4月13日号掲載)

 
象山余聞