046 肺塞栓症 ~エコノミー症候群も 深部静脈血栓症が主~

 

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 「肺塞栓症」という病気をご存じでしょうか。「エコノミークラス症候群」という名前の方が一般的かもしれません。飛行機の狭い座席に長時間座っていると起こるため、この名前が付いています。


血の塊が脚から肺へ

 "塞栓"とは、血液の流れに乗って運ばれてきた異物、主に血栓(血の塊)が血管をふさぐことです。肺の血管に血栓が運ばれて詰まる病気が肺塞栓症です。


 9割以上は脚の静脈内に血栓ができる「深部静脈血栓症」が原因です。その血栓が血液の流れに乗って移動し、右側の心臓を通って肺動脈に運ばれ、そこで詰まるのです。


 どんな症状がみられるのでしょうか。軽症例から重症例まで症状は様々ですが、一番多い症状は息苦しさです。胸が痛むこともあります。重症例では血圧が低下し、失神することもあり、突然死する人もいます。肺に運ばれた血栓の量が多く、たくさんの肺動脈を詰めるほど重症となります。


 どんな人に起こりやすいのでしょうか。通常、血管の中では血液は固まらないはずですが、(1)固まりやすい性質の血液である(2)血液の流れが悪い状態にある(3)静脈が傷ついている-といった条件が静脈内での血栓形成の引き金になります。


 中でも多いのは(2)で、エコノミークラス症候群もこの仕組みで起こります。飛行機で長時間同じ脚の姿勢でいると、脚の静脈内血流が停滞し、血栓ができやすくなります。


 最近では、震災避難所の被災者に深部静脈血栓症や肺塞栓症が多いことが問題になりました。肥満、寝たきりの人、心疾患・悪性腫瘍・脳卒中の既往がある人、経口避妊薬を内服している人、妊娠中の人、骨折している人などに起こりやすい-といわれています。


脚を動かして予防

 予防法として一番有効なのは、脚を動かすことです。血液が重力に逆らって脚から心臓に戻るのは容易ではありません。つまり脚の静脈は血液が停滞しやすいのです。


 歩行などにより脚の筋肉が収縮すると、静脈をマッサージして血液を押し上げる補助ポンプの役割を果たします。きつめのストッキングを着用して、静脈に血液が停滞しないようにする予防法もあります。脱水になると血液が固まりやすくなるため、水分を補給することも大切です。


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 肺塞栓症の患者さんの約半数に、深部静脈血栓症の症状である下肢の腫れ、皮膚の色の変化がみられます。同じような症状はほかの病気でも起こりますが、特に片側の脚に症状が出た場合には、深部静脈血栓症である可能性が高くなります。

(2013年5月25日号掲載)


=写真=笠井 俊夫(循環器内科科長=専門は循環器)



 
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