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49 『シリアの花嫁』(2004年) 〜邦画収入が洋画を凌駕したが

 Q 日本の映画総興行収入の約7割が邦画というのは、洋画が面白くなくなったからですか? 


 A この数字は日本映画の面白さが外国映画を凌駕(りょうが)した結果ではないと思います。

 日本で大ヒットした邦画の多くには放送局などメディアが深く関わっています。もちろん宣伝だけで集客できるわけではなく、作品の質が伴ってこそですから、日本映画が頑張っていることは事実なのですが、テレビ、新聞、雑誌、WEBの企業広告などが巧みに連携して宣伝効果を上げていることは否定できません。映画は様々な2次利用を前提にしたコンテンツ・ビジネスなのです。


 輸入される外国映画は、その製作数からすれば、ほんの微々たるもの。ハリウッド超大作は別にして、どんなに芸術性や社会性に富んだ作品でも、興行的にリスクがあると判断されれば配給されません。


 実際、外国映画を見たい人たちはもっといるのです。今年2月に帰天された高野悦子さんたちの名作映画上映運動「エキプ・ド・シネマ」の劇場前の長い行列は、その証拠だといえるでしょう。


 例えば、エラン・リクリス監督の『シリアの花嫁』(2004年、イスラエル=フランス=ドイツ)もそこで選ばれ、多くの人々の支持を得た作品です。


 あるカップルの結婚式の日、花嫁とその家族はみんな忙しくしています。花婿はシリアの人気スター。すべてがハッピーな一日となるはず。でも、軍事境界線が人々の営みを分断しているゴラン高原の村では事情が違います。


 なにしろ、花嫁は映像でしか花婿を知らず、いったん、軍事境界線をシリア側に渡れば、二度と故郷の村には戻れないのです。花嫁の父はシリア寄りの政治姿勢を貫き、イスラエル当局から式場となる軍事境界線に近づくことを許可されていません。姉は父のために奔走しますが、警察は監視を緩めません。


 ロシア人との結婚で長老たちから裏切り者とされている兄も妻子と戻ってきますが、父は拒絶。おまけに、出国書類のイスラエル政府の新しいスタンプをシリア側が認めないと言い出して...果たして、花嫁は無事に嫁ぐことができるのでしょうか...。


 なじみの薄いドゥルーズ派イスラム教徒の家族の物語が日本の多くの観客を魅了し、より深い、人間と国際問題の理解へと導きました。


 外国映画は長らく日本人にとって外の世界を覗(のぞ)く窓だったのです。邦画が圧倒的に支持されているのは結構ですが、それが、国民の多くが内向きになって、世界の事物に関心を抱かないためだとしたら、危険なことかもしれません。

(2013年5月4日号掲載)

 
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