記事カテゴリ:

50 『ファミリー・ツリー』(2011年) 〜まじめなコメディーは?

 Q 話題作のDVDが、シリアスドラマだと思ったのにコメディーと書いてありました。真面目なコメディーってあるの? 


 A 10年ほど前に発表されたアメリカン・フィルム・インスティチュートの「喜劇映画ベスト一〇〇」を見てみましょう。1位はマリリン・モンローの『お熱いのがお好き』。大抵の人は納得できそうです。


 でも、9位の『卒業』には釈然としない人も多いのではないでしょうか。『影なき男』『アメリカングラフィティ』『マンハッタン』『ファーゴ』といった「コメディーとは思えない」という声が上がりそうな映画もランクインしています。


 コメディー(喜劇)はトラジディー(悲劇)との対比で使われる言葉でした。悲劇が英雄や高貴な人々の運命に関わるのに対して、喜劇は批判的なまなざしで庶民の性格や行動を語り、観客の笑いを誘うものです。


 笑いには哄笑(こうしょう)から微苦笑まで様々なものがあり、単純なドタバタ(スラップスティック)コメディーだけがコメディーではないということでしょう。


50-kinema-0601p.jpg

 ジョージ・クルーニーがアカデミー主演男優賞にノミネートされた『ファミリー・ツリー』(2011年、米国、アレクサンダー・ペイン監督)も確かに、コメディーと分類されています。


 舞台はハワイ。クルーニー演じる主人公は先祖伝来の土地の売却を考えている中年男。ボート事故で昏睡状態の妻の介護に忙殺されています。末娘は学校で問題を起こし、医師からは延命処置拒否の妻の生命維持装置を外さねばならないと告げられます。さらに、長女からは妻の不貞を知らされ、彼らは不倫相手を探し別の島へ...。


 こう書くと、なんと暗い悲劇ではないかと思いますよね。確かに、爆笑映画ではありません。でも観客は、主人公の苦悩に共感しつつ、何度も苦笑したり、微笑したり、声を出して笑うことになります。


 やがて、潔い土地問題の解決と、傷ついた者同士のいたわりを目撃します。そして、ラスト。テレビの前のソファで、妻・母の体を覆っていたキルトに脚を入れて、アイスクリームを分け合う父娘3人の姿に、どこの世界にあっても連綿とつながる人間の家族というものの、ありふれているからこその素晴らしさと希望を感じるのです。


 実は、悲劇と喜劇を分かつ最も重要な要素は、笑いの量ではなく、笑いの中の希望なのです。それは見る人を幸福にし、社会を少し善くすることができます。ハリウッドで喜劇をうまく演じられる俳優ほど評価が高いのは、そのためだと思うのです。

(2013年6月1日号掲載)


=写真=『ファミリー・ツリー』DVD発売中 1490円 20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン

 
キネマなFAQ