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71 犬−野性の持つ美しさと力(3) 

 人間の犬とのお付き合いは縄文の早期からだという。1万年もの間、お互いに世話になり、助けたり助けられたりしてきた間柄だ。


犬の予知能力

 駒ケ根市の光前寺にまつられている霊犬早太郎は、不動明王の化身か、といわれている。たくましさ、精悍の代表格で幾多の伝説を持つ。化け物にも果敢に挑んで退治したり、人の危機を事前に察知する能力にもたけていたという。


 犬の優れた嗅覚や敏捷さ、忠実・誠実な性格を利用して警察犬、盲導犬、聴導犬、セラピー犬など人間社会にも大いに登場し、感動的な場面がよく紹介される。災害時やテロ発生時などで、警察犬が現われると拍手が湧くほどだし、全盲の市議会議員が議場を盲導犬に誘導されている映像も紹介された。


 〈阪神大震災時に〉

 1995(平成7)年1月17日の早朝に発生した阪神大震災の折のこと。朝6時に犬を散歩させることを習いとしていた飼い主が、犬の異常なほえ方に気付き5時に散歩に出た。大地が鳴動し地震が発生したのは5時47分だった。屋外にいたので無事だった。


 〈病気の発作予知〉

 動物生態学者の今泉吉晴さんの「イヌと人とのいい関係」を読んだ。教えられたその中に


 イヌには「人の(てんかん)発作を予知する能力がある...イヌの予知能力の信頼性は高く盲導犬や聴導犬など...人が発作を起こす5〜20分前に予知し、膝に飛び乗って顔を舐めたり、前足で体を引っかいたりして知らせ...知らされた人は安全な場所に移ってしかるべき備えをし、突然の発作に襲われる危険を避けられるばかりか、いつ発作があるかもしれない日常の恐怖から解放され、大きな安心感を得ることができ...この安心感からか、発作そのものの回数が大きく減少する...」(『犬が生きる力をくれた』大塚敦子著 岩波書店)とある。本人でさえ気付かないでいるのに、イヌが心身の内部まで洞察するというのだ。


 さらにアメリカのワシントン州で「ごく最近になってブタにも人の発作を察知する能力が発見され、そのためにペットにブタを飼う人が増えてきた...老人が発作で倒れたときに、ペットとして飼われていたブタが家を飛び出して道路の真ん中に横たわって人を呼び、危ういところを助けた、といった事例がいくつか重なり、ブタの人気が急上昇しつつある...」のだそうだ。


 それこそ危険な道路に豚が横たわって人を呼ぶ-実際、ただごとではない能力であり、行動だ。


 今泉さんは動物が「"人を読む-人の心身を読む"たしかな能力を持つことを証明する重要で疑いようのない証拠の一つ」だと言っている。そして「じつはイヌにかぎらずネコもブタも、あるいはウシもウマも、動物はみな人の心を読む名人ですが、何と言ってもイヌは直截(ちょくせつ=中間に隔てるものがなく、じかに接すること)というか直情です。私も友人と議論していてつい熱をおびてくると、彼のイヌがそっと間に割ってはいるのを見たことが何回もあります」と語っておられる。そして今泉さんは「...印象に残るのはやはりイヌの"人の心を読む"能力なのです」と語る。


主人を追って500キロ

 犬が歩いたこともない遠い道を主人を追って...という話をよく聞く。これもその一つ。

 「五日、新ユーゴの首都ベオグラードの北西ルマの難民キャンプで、飼い主のゴラン・ラダノビッチ君(15)と写真に納まるのは愛犬デニ。クロアチアのセルビア人であるラダノビッチ一家は昨年夏、戦火を逃れ、同国クライナ地方ペトリニャを離れる際、泣く泣くデニを置き去りにした。しかし、忠犬デニは4カ月半かけて500キロを走破、見事主人と再会を果たした。」(1996・5・9 朝日新聞)

 動物の持つ誠実さと優しさほど心温まる話はない。いら立つ人の心に真っすぐに入ってきて、和らげてくれる。

(2013年6月7日号掲載)


 
美しい晩年