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09 岩登り 〜「物見の岩」が原点に克服していく醍醐味〜

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 「グループ・ド・モレーヌ」は、長野高校定時制出身の山好き仲間が、1954(昭和29)年に結成した山岳会です。1950年代といえばアンナプルナ、エベレスト、マナスルなど8000メートル級の山々の初登頂が続いて話題となり、日本の経済成長も順調で、登山が大衆化に向かった時代といえます。


 モレーヌはフランス語で「氷河が運ぶ堆石」の意味。一つ一つはちっぽけな石ころでも積めばケルンになる、つまり皆が集まれば力が出せるとの意味をこめて名付けたもので、実際、公務員、会社員、農業、自営業者など、様々な職業の方々の集まりでした。


 新人教育カリキュラム

 実質的なリーダーは吉沢一郎さんという県警本部の事務職だった方。現在の県警山岳救助隊(当時は山岳パトロール隊)の創設者です。山に向かう姿勢、技術、どれも素晴らしく、今も私が尊敬する人の一人として心の中に生きています。


 入会するとすぐに新人訓練です。ちょうど新人用の教育カリキュラムができたところで、マニュアルもきっちりしていました。初等科で最低1年。合格までに2年、3年かかることもあります。それから中等科に進級。さすがは名門山岳会だけのことはあると感心しました。 


 指導してくれる先輩に連れられて行った練習場所は、大峰山の隣にある「謙信物見の岩」。川中島合戦で上杉謙信が武田勢の動きを偵察したといわれる、善光寺平を一望する巨岩の下の断崖が、ロッククライミングの練習に格好なのです。モレーヌのベースともいわれる所で、私は今も、自分の原点であるこの岩に通っています。


 上越山岳会で雪山を学んだので、次は岩登りをしたい。それがモレーヌに入会した大きな理由ですが、最初に断崖を見上げたときは正直、怖かったです。しかし道具を使いこなし、基本から技術を習得していくことで危険は避けられることが、頭でも体でも分かるようになります。


 岩登りは、基本的にはザイル(ロープ)で結ばれた2人ペアで行います。役割分担は明確で、2人同時に動くことは絶対にありません。先頭を行く人は「ハーケン」という岩釘(くぎ)を、ハンマーで岩の割れ目に打ち込み、「カラビナ」という金属製の環(わ)にザイルを通しながら少しずつ登ります。この間の下の人の役割は、もし上の人が落ちても必ず食い止められるよう「確保の姿勢」を保っていること。ザイルの長さは40メートル。この分を上の人が登ったら下の人をたぐり寄せ、ちょうど尺取虫のように進むわけです。


徹底的な安全訓練

 遠くから見たり写真ですと、ほとんど垂直の壁をよくも登れるものだと感じられるかもしれませんが、ビルの壁など人工物と違って自然の岩は起伏に富んでいます。凹みも出っ張りも割れ目も、テラスと呼ぶ広めの場所もある。私たちはそれを「弱点」と言いますが、弱点を探しては克服していくのが醍醐味(だいごみ)なのです。


 ハーケンが抜けたり、バランスを崩して墜落することを想定して対処する、安全のための訓練を徹底的に行うのがモレーヌの姿勢でした。私は最短の1年で初等科を修了。証しのバッジ、しかも77番というラッキーナンバーをもらい、さらに技術を磨こうと意欲満々でした。


 ところで家族からは、毎日帰りが遅い上に休日も留守、加えて普通の山登りでは使うはずがないヘルメットやハンマーを見て、岩登りに通っていることが分かると、特に母から大反対されました。

(2013年7月6日号掲載)


=写真=松代町の尼厳山で岩場を開拓する私

 
田村宣紀(のぶよし)さん