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52 『火垂ほたるの墓』(1988年) 戦争体験を伝える映画は?

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 Q 日本が再び戦争に巻き込まれないか、不安なこのごろ。現在の若い人たちに映画で過去を知らせることはできるでしょうか?


 A 父母はもとより、祖父母からも戦争の体験を直接聞く機会がなくなりつつある中で、今後、映画はますます重要な役割を果たすでしょう。スティーヴン・オカザキ監督が証言でつづった『ヒロシマ ナガサキ』(2007年)、小林正樹監督がペンタゴン(米国防総省)に残されたフィルムを基に作った『東京裁判』(1983年)などの秀作があります。


 さらに、戦前・戦中に戦意高揚のために作られた劇映画や記録映像、それらも取り込んでアメリカ側が作った『Know Your Enemy: Japan』(1945年、フランク・キャプラ、ヨリス・イヴェンス監督)のような映画も貴重な歴史の資料です(ウェブで視聴可能)。


 ただ、たとえ記録映像を引用したドキュメンタリーであっても、記録自体が何らかの意図をもって撮影され、編集されたものであることに注意し、批判的に見る必要があります。


 その場に居合わせた事件でも、他人の体験談と自分の経験が違うと思うことがあるのではないでしょうか。記録写真やドキュメンタリーの写し出す映像だけが、本当に起こったことだと言い切ることはできません。


 そして、芸術の本質が「現実の模倣」であることを思い起こす必要があります。映画は、事実を使って歴史の本質をねじ曲げて示すことも、また明らかなうそによって歴史の本質をリアルに描き出すこともできるのです。


 今月公開される『少年H』(降旗康男監督)は神戸大空襲を経験した妹尾河童さんの小説を基にしたものです。同じ空襲を経験した野坂昭如さんは、その体験を『火垂るの墓』という小説で語り、その小説を基に1988年、高畑勲監督が日本アニメ史に残る傑作『火垂るの墓』を作りました。


 神戸大空襲で母と家を失った14歳の兄が4歳の妹を連れて、自分たちだけで必死に生き、はかなく逝く物語です。


 原作から逸脱することなく、アニメ独自のイメージを作り上げた高畑監督は、1945年当時、作中の妹と同じ年であった宮崎駿さんよりやや年長ですから、世代的には兄に近い目で時代を見ていたかもしれません。


 監督自身が述べているように、この映画は声高に反戦を叫ぶ映画ではありません。しかし、これを見て、戦争をしたいと思う人はいないでしょう。戦争はいつも最も弱い者に、最も過酷な運命を負わせることが静かに確実に伝わります。 

(2013年8月3日号掲載)


=写真=「火垂るの墓」ブルーレイディスク ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンより発売中 (C)野坂昭如/新潮社, 1988

 
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