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大阪・兵庫09 道明寺(どうみょうじ) ~善光寺と結ぶ~

 〈あらすじ〉 鎌倉の僧が善光寺の内陣にこもって祈ったところ、河内国の土師(はじ)寺に行き、そこの木げん樹(げん=木へんに患)の実で数珠を作り、百万回念仏を唱えたら、極楽浄土に行けるという霊夢を授かる。早速土師寺に行き、そこにいた老人に告げると、老人は菅原道真(天神)の氏寺であることなどを教え、「私は天神に仕える白大夫の神」といって消える。その夜、天女と白大夫の神が現れて舞い、終わりに木げん樹の実を落としてくれる。僧は念願の数珠を作ったところで、夢から覚める。
       ◇
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 土師寺とは、大阪府藤井寺にある道明寺のこと。かつて一帯は道真の先祖である豪族・土師氏の領地で、伽藍(がらん)や五重塔などある神仏習合の大規模な寺だった。それが重なる戦火で多くが焼失し、さらに明治の神仏分離で、道真を祭る道明寺天満宮と、尼寺の道明寺に分けられた。

 道明寺には、道真が「五部の大乗経」の写経を埋めたところで、そこに木げん樹が生えてきたという古い伝説があった。木げん樹は7月に黄色い花を咲かせ、秋には直径6ミリ程度の丸い実を付ける。世阿弥(ぜあみ)がその木げん樹と、大衆信仰として広く知られていた善光寺を結び付けて、この謡曲を創作した。

 道明寺へは、JR天王寺駅から近鉄南大阪線に乗り換え、土師ノ里駅の次の道明寺駅で降りる。駅前の商店街を抜けると、道明寺天満宮がある。石段の奥に社殿や、謡曲に登場する「白大夫社」などの摂社が並び、裏に梅林が広がっている。道明寺は天満宮から少し離れた西隣にある。山門をくぐると太子堂があり、中に道真が彫刻した十一面観音像(国宝)が安置されている。

 木げん樹の幼木は境内にもあったが、「本物」はここではない。十数年前に来たのに、その場所はすっかり忘れており、散歩のお年寄りに案内してもらった。天満宮の石段から南に住宅街を100メートルほど進むと「古代五重の塔礎石」の標識塔があり、見覚えのある囲いの塀と謡曲史跡保存会の駒札があった。

 塀の中には十何代目かの木げん樹が2本。前回来た時は幼木だったが、見上げるばかりの大木に成長していた。が、訪れたのは6月半ば。今度も花と実に対面できなかった。

 それなら「花より団子」と、本場の道明寺餅を探したら、商店街の生菓子店で売っていた。道明寺と提携し、尼僧が作ったもち米の粉を丸めたもので、まさに「正真正銘の道明寺」だ。5年前から販売していて、「伝統食の復活」と紹介された雑誌の切り抜きを見せてくれた。ただし、訪れた時は午後3時過ぎ。当日分は売り切れていた。

 帰宅してから、道明寺餅を食べないと気が治まらない。近くのスーパーで探したら関東産を売っていた。伊豆で栽培している桜の葉で包んである。葉ごと食べると、口の中に淡い春が広がった。
(2014年1月1日号掲載)

=写真=道明寺の木げん樹

 
謡跡めぐり