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037 スペイン モンセラート ~戸隠山を思い起こす形状~

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 信州で「ぎざぎざな山並み」と言えば、異口同音に「戸隠山」と答えるだろう。このぎざぎざな山が、スペインの大都市バルセロナの北西60キロの所にある。モンセラート。スペイン語で「のこぎりの山」とか「ぎざぎざの山」という意味だ。

 私が最初に訪れた時は、事前に「死者の顔」の山と聞き及んでいた。のこぎりの歯のような山並みよりもむしろ、近くで見る奇岩群のそれぞれが不気味で、死者の顔にも似ているからだという。

 ロープウエーで展望台に登れば、眼下に修道院、遠くにバルセロナの町も見渡せる。この修道院がすごい。アーサー王の伝説にも登場する、ベネディクト会派のサンタマリア・モンセラート修道院付属大聖堂だ。この中に黒い聖母が安置されている。880年に羊飼いの少年が岩山の光につれられて、洞窟の中でこのマリア像を見つけたという。もともとの白い像が、長年のろうそくの煤(すす)で黒くなったのが真相のようだが、信者たちはこの像をなでていく。そのさまは善光寺のびんずる様が顔などをなでられて、つるつるになった様子を思い出させる。

 この修道院でもう一つ忘れてはならないのは、少年聖歌隊だ。エスコラニア少年合唱団。少年合唱といえば、ウィーンのそれを思い描きがちだが、この天使の歌声の聖歌隊の方が歴史的に古い。世界でも高い評価を受けて、来日経験もある。

 ゆっくり見学していた私は、うっかり最終の電車とバスに乗り遅れてしまった。タクシーも見つからなかった。少し焦った私は、度胸を決めて、近くの民家のドアをたたいた。3軒目。中年の男性が「マンレーサならここから30分足らずだ。俺が送ってやろう」と手を挙げた。乗用車を出してバルセロナと逆の方向の地方都市マンレーサのホテルへと向かった。片言の英語を話すこの男は朴訥(ぼくとつ)だったが、誠実そうで、私はラッキーだと思った。

 ホテルに着くと、お礼のつもりでお金を差し出すもかたくなに拒否。持っていた日本の穴開きの五円玉が珍しかったのか、「俺の息子が外国のコインを集めているんだ」と言ったので、ホテルの部屋に戻って百円玉と十円、一円玉のコインを差し出すと、「これで息子は大喜びだ」と喜んで、来た道へと、ハンドルを切って消えた。見送る私は、なんだか申し訳ない気持ちと素朴な地元の人の親切さに触れた気がした。

 翌朝、目覚めると、ホテルの部屋からあののこぎり状の山並みが戸隠山のように、朝日を浴びて赤く輝いていた。 
(2014年1月11日号掲載)

=写真=修道院の背後に際立つ奇岩群
 
ヨーロッパ美の旅