057 手術時の輸血 ~可能な限り行わず 手術前に採取・保存~

 手術中に輸血をするかどうかの判断は、麻酔を行うとともに全身状態の管理を担当している麻酔科医が行っています。

 それでは、手術中にどれくらいの出血があったら輸血が行われるのでしょうか。

 減った輸血の機会
 20年ほど前までは、実際に体内を巡っている血液量の10%の出血があったら輸血を行う-というのが、常識的な考えでした。成人の場合は、体重1キロ当たり約70ミリリットルの血液があります。体重50キロの人なら体内に3500ミリリットルの血液があり、その10%つまり350ミリリットルの出血があれば輸血を考慮していたわけです。この程度の出血は多くの手術で起こり得る量であり、当時は現在より手術中に輸血を受ける人が多くいました。

 その後、輸血に伴う副作用、特に肝炎などの感染症の危険性がより重要視されるようになり、可能な限り輸血は行わないという考えが広まりました。酸素を運搬する赤血球のヘモグロビン濃度が7~8グラム/リットル程度(正常値は12グラム/リットル以上)に低下するまでは、体内への酸素の供給が十分保たれることも明らかになってきました。

 現在では、循環血液量の2割以上の出血に達するまで、あるいはヘモグロビン濃度が8グラム/リットル未満になるまでは輸血を行わないのが、基本的な考えになっています。これに伴い、手術中に輸血が行われる機会は減少しました。こうした管理が可能となった背景には、術前術後の全身状態の管理技術が大きく進歩したこともあります。

 安全な自己血輸血
 輸血を行う場合、通常は献血による血液センターから供給される血液製剤を使用しています。ただ、その安全性は以前よりはるかに高まっていますが、副作用などの問題点が完全になくなったわけではありません。

 そこで最近は、他人の血液を輸血(同種血輸血)するのを避ける目的で、自己血輸血が行われることが多くなってきました。これは、輸血が必要になると考えられる手術の際に、自分の血液を前もって採取・保存しておき、出血が多くなったら体内に戻す方法です。

57-iryo-0111p.jpg
 主な方法として、入院前に採血して手術の時まで冷蔵保存しておく貯血式自己血輸血法と、手術当日に手術室で全身麻酔導入後に採血する希釈式自己血輸血法があります。2つの自己血輸血法は当院でも日常的に行われており、同種血輸血の回避に役立っています。
(2014年1月11日号掲載)

=写真=成田  昌広(麻酔科部長兼手術センター長=専門は麻酔科)
 
知っておきたい医療の知識