最近"口腔(こうくう)ケア"という言葉をよく耳にするようになりました。
この言葉には大きく二つの意味があります。一つ目は「口腔機能(摂食、咀嚼(そしゃく)、嚥下(えんげ)、構音、審美性の回復)の向上支援」、二つ目は「口腔内を清潔に保つこと」です。今回は特に二つ目の"口腔内を清潔に保つこと"の大切さを紹介します。
口腔内に驚くほどの細菌
口腔内には300~400種類の細菌が生息しており、唾液1ミリリットル当たり約1億個の細菌、歯垢(しこう)1グラム当たり約2500億個の細菌がすんでいます。ちなみに糞(ふん)便1グラムに含まれる細菌数は約1000億個ですから、口腔内の細菌数がいかに多いかが分かります。
食べかすには細菌がすみつき、繁殖します。歯磨きやうがいで食べかすを取り除き、口腔内を清潔にすることは、口腔内の細菌を減らすのと同義といえます。
細菌が繁殖すると、よく知られているとおり、虫歯になったり、歯周病(歯槽膿漏(しそうのうろう))になったりします。また、高齢の人や病気で嚥下機能が低下している場合は、誤嚥性肺炎の発症リスクが上昇します。
また、歯周病の病因菌が糖尿病や心筋梗塞、狭心症、骨粗しょう症、低体重児や早産など、様々な全身疾患に関与していることが分かってきました。これらはいずれも、歯周病を予防することで発症リスクを軽減できます。
口腔内を清潔に保つことには、様々なメリットがあるのです。
がん治療と口腔ケア
ここで、がんの治療と口腔ケアの関係についても紹介しましょう。がんの治療方法には大きく(1)手術(2)抗がん剤治療(3)放射線治療があります。これらの治療前から口腔ケアを行うと、治療した部分(特に胃・食道・大腸)の術後感染が減少することが報告されています。
抗がん剤治療の場合は、約40%の患者さんに口内炎や粘膜炎が出現します。放射線治療(特に頭頸部)の場合はさらに高頻度に同様の副作用が出現します。

また、治療中に免疫力が低下すると、口腔内の細菌が活発化して口腔の外に広がり、増殖することがあります。がんを治療するには、口腔ケアに取り組むこともとても大切です。
日頃から口腔内を清潔に保ち、おいしく食べ、楽しく話し、健康("健口")で充実した日々を送りたいものです。
(2014年1月25日号掲載)
酒井 洋徳=歯科・歯科口腔外科科長=専門は歯科・歯科口腔外科