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大阪・兵庫12 高砂(たかさご) ~謡曲の代表作~

 〈あらすじ〉 肥後国の神主・友成が高砂の浦に立ち寄ったところ、老夫婦が松の木陰を掃き清める。「有名な高砂の松はどれか」と聞き、さらに「相生の松」のいわれなど尋ねる。2人は故事などを引用して説明した後、尉(じょう=翁)は住吉の松、姥(うば)は高砂の松の精であると正体を明かし、「住吉で待っている」と言って消える。神主が浦舟で住吉に着くと、尉が住吉明神となって現れ、平和な御代を祝って舞ってみせる。

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 この謡曲は「初能物の代表だけでなく、謡曲全体の代表作のように昔から扱われてきた」(観世謡曲本の解説)。「高砂と住吉は国を隔てているのに、どうして相生の松というのか」という友成の疑問に対し、「うたての仰せ候や、山川万里を隔つれども、互いに通う心遣いの妹背の道は遠からず」と答え、夫婦の愛はたとえ遠く離れていても、いつまでも変わらないと説明する。「遠距離恋愛の元祖」といってよい。

 謡曲はこのように常緑の松の精、夫婦の円満と長寿、平和の御代を主題としている。このため、めでたい小謡が多く、なかでも「高砂や この浦舟に帆をあげて...」の一曲は、婚礼で広く謡われてきた。

 「高砂」の史跡は、兵庫県高砂市の高砂神社。JR加古川駅からタクシーで10分ほど。大己貴命(おおなむちのみこと)など3神を祭った本殿を中心に、多くの摂社や神木が並んでいる。見どころは老夫婦を祭った尉姥神社、見事に生育している5代目の「相生の松」、幹だけ残った3代目の松、友成が杖を挿したら生えてきたという「神木いぶき」など。能舞台は廃屋同様となっていたが、2013年9月にひのき造りの立派な舞台を新築した。完成式には神事や仕舞を奉納し、全員で「高砂」を合唱した、と神戸新聞が報じている。

 実は史跡の神社がもう一つある。加古川市の尾上(おのえ)神社だ。こちらのご神体は分霊した住吉大明神。謡曲に登場する「尾上の松」があり、現在8代目と9代目を育てている。「高砂の尾上の鐘の音すなり」と謡われている「尾上の鐘」もある。神功皇后が朝鮮半島から持ち帰ったと伝えられ、国の重要文化財に指定されている。

 両社とも「友成が訪れたのはこちら」と主張しているようだ。が、史跡や縁起書などからみても甲乙付けがたい。ならば、どちらも「本家」と受け入れて、じっくり巡ってみるより仕方がない。

 ところで「高砂」の小謡は、近ごろ婚礼でめっきり聞かれなくなった。私の場合は父の友人が謡ってくれた。緊張して2人で聞いたが、その妻は早く先立ってしまった。「高砂」は私にとって、妻を追憶する曲の一つになっている。
(2014年2月1日号掲載)

=写真=高砂神社の5代目「相生の松」
 
謡跡めぐり