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58 『アラビアのロレンス』(1962年) ~名優ピーター・オトゥール

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 Q 昨年鬼籍に入ったピーター・オトゥールの大ファンです。彼がアカデミー主演男優賞を獲得できなかったのはなぜですか?

 A 長身に、輝くブロンドの髪と澄んだブルーの目、繊細な表情とよく通る声。アイルランドの生んだ名優を惜しむ人は多いと思います。

 オトゥールといえば、誰もがデビッド・リーン監督『アラビアのロレンス』(1962年)を思い出すに違いありません。この作品はアカデミー作品賞を獲得し、オトゥールも主演男優賞の候補となりました。しかし、その年の主演男優賞は『アラバマ物語』のグレゴリー・ペックでした。

 新人でアメリカの理想の父親像と競って以来、不運にも大物スターの極め付きの代表作が並ぶ年に限って賞の候補に挙がりました。その数、なんと8回。

 『ベケット』(64年)では『マイ・フェア・レディー』のレックス・ハリソン、『冬のライオン』(68年)では『まごころを君に』のクリフ・ロバートソン、翌年の『チップス先生さようなら』では『勇気ある追跡』のジョン・ウェイン、73年の授賞式では『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドに賞をさらわれます。81年には『レイジング・ブル』のデ・ニーロ、83年は『ガンジー』のベン・キングスレー。『ヴィーナス』の老優役で生涯最後の主演男優賞候補となった2007年も、オスカーは『ラスト・キング・オブ・スコットランド』のフォレスト・ウィテカーの手に渡りました。

 03年には名誉賞を受賞しましたが、生涯男優賞は取れませんでした。デビュー作での受賞はキャリアにマイナスといわれますから、『アラビアのロレンス』はおくとしても、巡り合わせが違えば、少なくとも同じヘンリーⅡという実在の人物を演じた『ベケット』か『冬のライオン』での受賞はあったと思います。特に『冬のライオン』では、彼が敬愛したキャサリン・ヘップバーンが主演女優賞を獲得しており、男女ダブル受賞もおかしくなかったはずです。2人の火花散る演技に映画を観る醍醐味(だいごみ)を感じない人はいないでしょう。(この作品は現在HD版のDVDで見ることができます)

 確かにアカデミー賞について、彼は不運だったかもしれません。でも、病気を克服し、傘寿のころまで現役で、今年公開予定のアレキサンドリアの聖カテリナを描く作品まで、90本以上の映画に出演した彼は、まさに強運の人だったと思います。なぜって、マーロン・ブランドが「2年も砂漠でラクダの背に揺られるなんてまっぴら」と言わなければ、彼がロレンスを演じることはなかったのですから。
(2014年2月1日号掲載)

=写真=『アラビアのロレンス』 発売・販売元/(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 1480円
 
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