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59 『ベン・ハー』(1959年) ~恐れを知らぬ男たち

Q TVで「5万回斬られた男」福本清三さんのドキュメンタリーを見ました。ハリウッドにもあんな俳優さんがいるのでしょうか? 

A 福本清三といえば、『ラストサムライ』で、トム・クルーズ演じる主人公をかばって絶命する極端に寡黙な侍を演じて注目された人。東映剣会所属の、斬られ役界のスーパースター、大部屋俳優の希望の星です。古希にして海老反りで頭から倒れられる役者さんは他にはまずいないでしょう。

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 役の獲得競争が熾烈なハリウッドで5万回殺されるのは難しいでしょうし、米国の製作現場は職能組合によって、役割分担が明確に決まっているので、大部屋俳優にして、専門的な殺陣や擬闘を演じ、時としては死体の役やスタントもやるというようなことはあまりないだろうと思います。

 勿論、危険を恐れぬ演技者はハリウッドにも沢山います。例えば、ヤキマ・カナット。もともとロディオのチャンピオンで、ダグラス・フェアバンクスの友人となって、映画にも出演しましたが、なんといっても彼を有名にしたのは、1939年の『駅馬車』で、ジョン・ウエインに代わって、爆走する馬車の御者台から馬に飛び移り、馬から馬へ移動して、さらに馬から落ちて、馬蹄の間をひき擦られてみせたことです。後に多くの監督たちがオマージュをささげたこの伝説のスタントだけでなく、クラーク・ゲーブルらのスタントを引き受け、満身創痍となりますが、やがて、アクションの監修者、セカンドユニット(分担撮影)監督として成功を収めました。

 59年の超大作『ベン・ハー』の四頭立て戦車競争の場面は彼がプランし監督したものでした。息子のジョー・カナットがチャールトン・ヘストンに代わって、はねあがる戦車を御しています。(オリジナルをコマ送りにすると、ヘストンとカナットが入れ替わっていることが確認できます)

 洋の東西を問わず、磨きあげられた芸が生み出す迫力や情感は、CG全盛のいまだからこそ、観るものに、一層深い感動を与えるようです。

 ハリウッドでは、アクションを一度に複数のカメラで撮影することを前提に演出がなされ、ご覧になったTV番組でも紹介されていたように、撮影位置を読み切って、刀をあわせることなく構成される殺陣の美学はまだよく知られていないようです。斬られ役さんたちが活躍できる時代劇が激減している今日、藤沢周平や葉室燐の世界を日本映画人の芸の力でみたいと思っている人はきっと多いはずなのですが...。
(清泉女学院大学教授)

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