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041 イスタンブール 地下宮殿 ~配列された大理石の柱336本~

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 映画の007シリーズに名作『ロシアより愛をこめて』がある。東西冷戦のさなか、主人公ジェームズ・ボンドがイスタンブールを皮切りに活躍するのだが、前半で地下に手漕(こ)ぎのボートに乗って移動するシーンがある。そこが「地下宮殿」だ。当時は水かさが高く、後に歩道整備された。

 代々、ギリシャの住人がバケツで生活用水としてくんでいた地下水だ。だが、この水源が、とんでもない"宮殿"になっていた。

 通称・地下宮殿は元来、貯水槽だった。本当の名前は「バシリカ・サルヌジュ」。古代ローマ帝国のコンスタンチヌス1世によって造られ、その後拡張。コンスタンチヌス1世は、古代東ローマ帝国でキリスト教を国教として公認したことから聖人とされ、イスタンブールの旧名「コンスタンチノープル」は彼の名を冠したものだ。

 貯水池は奥行き140メートル、幅70メートルで面積9800平方メートル。高さは8メートル。336本の大理石の柱がそれぞれ4メートル間隔で規則正しく配列され、柱頭は装飾が美しいコリント式。赤くライトアップされて幻想的だ。

 ここの水はかつて、20キロ上流の森からボズドゥーアンとマロバ水道橋を経て運ばれてきた。こぢんまりした入り口に惑わされなければ、間違いなくイスタンブール屈指の観光スポットだ。水たまりの池にはコイが泳ぎ、所どころにコインが投げ込まれている。

 ここの見どころは、列柱群ばかりではない。二つある。一つが涙目模様の柱の一角に500円玉大の穴が開いている。ここに親指を当てて一気に360度回転させると、幸運が来る、とか。どこの国でも人々はこんなおまじないが好きなようだ。

 もう一つ。宮殿の最奥部に人が群がっている場所がある。柱の基底部が彫り物になっている。しかも二つ。ギリシャ神話の魔女のメドゥーサの顔だ。

 メドゥーサはもともと、美しい髪を持つ娘だったが、自信過剰になり、女神アテナの嫉妬を買い、ゴルゴオという怪物にさせられた。自慢の巻き毛は蛇となり、以来、彼女の目を見た者は石に変えられた。彼女は、ゼウスの子ペルセウスによって首を切り取られた―。

 その切り落とされた顔の彫刻が2体。一つは横向きに、もう一つは逆さまになって柱を支えている。なぜそうなったのかは不明だが、横向きはサイズの都合ともいわれ、逆向きはあまりの形相に、そうせざるをえなかったのだとの説もある。
(2014年3月22日号掲載)

=写真=地下宮殿にある逆さまのメドゥーサの彫刻
 
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