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059 みどりのそよ風 ~清新な叙情をさわやかに~

 みどりのそよ風

      清水かつら作詞
      草川 信作曲

一、みどりのそよ風 いい日だね
  ちょうちょもひらひら まめの花
  なないろばたけに 妹の
  つまみ菜摘む手が かわいいな
 
   ◇

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 若草の上に腰を下ろしていた。新緑に薫る木々の枝の間を吹き抜け、穏やかな風が通り過ぎていく。
 長野市篠ノ井の茶臼山恐竜公園の一角に「童謡の森」と名付けられた広場がある。その屋外ステージを舞台に、さる5月10日、第22回篠ノ井童謡祭が開かれた。快晴にも恵まれ、歌声に耳を傾けるには絶好の一時だった。

 山の斜面にある公園の入り口から広場の辺りまで、標高差は100メートル近い。巨大な恐竜の模型、そこに上って戯れる子どもたちを眺めながら会場に着くと、すっかり汗ばんでいる。

 だからなお、肌をなでるそよ風の心地よさといったらこの上ない。しかもステージからは、あの「みどりのそよ風」の合唱が響いてくる。何と素晴らしいタイミングだろうか。

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 もったいないほど軽やかに、爽やかに心満たされた。信里小学校など篠ノ井地区6小学校の児童が、代わる代わる日頃の練習成果を披露した後である。

 大人の合唱団「唱歌と童謡を愛する会」が登場した。曲目は若葉の季節にふさわしく、陽光と微風の天候にぴったりの「みどりのそよ風」だ。悲惨を極めた先の大戦が終わって間もなく誕生している。NHKのラジオ番組を通じ、小学生の合唱曲として広く親しまれるようになる。

 作曲の草川信は、旧松代藩士の長男ながらも長野市県町で生まれ育った。「夕焼小焼」「揺籠(ゆりかご)のうた」「どこかで春が」などの代表作でなじみが深い。

 作詞の清水かつらは「すずめの学校」や「くつが鳴る」を思い起こせば、分かりが早い。1898(明治31)年、東京・深川で常陸土浦藩の江戸詰め藩士を父親に生まれた。本名が「桂」で長男。後に引っ越した埼玉県和光市の田園風景が、歌詞の背景を成している。

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 2人とも武士の血筋を引く家のしつけを受けつつ、身近な川や森で豊かな自然の恵みにあずかる少年期を過ごした。それが童謡の作詞、作曲に生きている。

 「みどりのそよ風」は2番で小鳥の子育て、3番で野球遊び、4番で魚釣り、5番で子ども同士の友情へと展開する。それを草川一流の流れるようなメロディーがつないでいく。

 敗戦の傷跡がいまだ癒えず、人々は空腹と不安の中で日々を過ごしていた。歌っていても聞いていても、自然に希望が膨らんできたのではないだろうか。

 それから60年余り、明るい方へ目を向かわせる、この歌の生命力は衰えていない。童謡祭の周りを見渡せば、青葉若葉がきらきらと翻り、拍手を送っているかのようだった。

〔歌碑〕「みどりのそよ風」の歌碑は、童謡の森のほか、東京都板橋区の東武東上線成増駅にもある。清水かつらゆかりの和光市のすぐ隣だ。
(2014年5月24日号掲載)

=写真1=和やかな篠ノ井童謡祭
=写真2=童謡の森にある「みどりのそよ風」の歌碑
 
愛と感動の信濃路詩紀行