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61 「世界大戦争(1961年)」 ~心に残っている作品は

 Q 「あの映画をもう一度」のころからのファンです。心に残っている映画を教えてください。

 A 意外なほど多くの人から「週刊長野で映画のコラムを読んでいます」と声を掛けてもらい、とてもうれしく思っています。

 これまで、数百本の映画をご紹介してきましたが、まだ書けていない作品がそれこそ山のようにあります。

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 今回紹介するのは、小学校で見て今も記憶に残っている映画です。昔は年に1度か2度、授業をつぶして講堂や体育館で映画を見る映画鑑賞会がありました。この映画を見たのは低学年のころでしたが、半世紀の時を隔て、今も鮮烈に覚えている場面があります。

 すべての交通が途絶する中、中北千枝子演じる母親が親切な保育士(白川由美)に預けた娘の元へ必死に駆けて帰ろうとして、途中で力尽きる場面。そして、フランキー堺、乙羽信子演じる両親が子どもたちと泣きながら、ちゃぶ台に並んだごちそうを食べる場面。

 心が痛くなる映画体験でした。

 見た映画は、松林宗惠監督「世界大戦争」(東宝、1961年)です。英題「The  Last War」が内容を示しています。

 上述の場面は、あと数分で、核ミサイルが日本各地に着弾するという設定での出来事なのです。ハリウッドのヒーローもののように、ラストでの奇跡は起こりません。ただ、その時が無情にやってくるのです。

 円谷英二の特撮監督作品ですが、スペクタクル・シーンはあまり覚えていません。

 戦後16年、必死の思いで生きぬいた両親がやっと、ささやかな幸福を味わい、子どもたちに自分たちが手に入れられなかったものを与えてやれると思った時、突然、東西陣営の不信によって、世界の誰もが望んでいない人類の破局が訪れるのです。

 この映画がスタンリー・クレーマー監督、グレゴリー・ペック主演の名作「渚にて」(59年)の影響下にできたことは否定できないでしょう。しかし、宝田明演じる航海士や山村聡演じる首相が繰り返し語る「戦争を放棄した日本だからこそ、できることがある」というメッセージは、戦後日本映画ならではのものです。

 小学校の先生たちが映画鑑賞会に「世界大戦争」を選んだ当時、1億には満ちていない人口の過半数が戦争体験者でした。今、1億を超える人口の中で、小学校の現役教員に日本の戦争を体験した人は皆無です。今の先生たちは、子どもたちのために、どんな映画を選んでくれるのでしょうか?

 本コラムは次回が最終回です。皆さんからの質問、お待ちしています。
(2014年5月3日号掲載)

=写真=「世界大戦争」【期間限定プライス版】DVD発売中 2500円+税 発売・販売元:東宝
 
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