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62 「終着駅 トルストイ最後の旅」 ~「最高」目安の一つに英雑誌

Q 最高の映画を教えてください。

 A 最高の定義が問題ですね。最高にもうかった映画という意味なら「アバター」だということになっています。でも、インフレ率を勘案すれば、「風と共に去りぬ」が上というような話もあります。

 もちろん、興行成績だけで映画を評価することはできません。映画の芸術性ということになると、お金のような物差しがありませんので、よく引用されるのが、英国映画協会の映画雑誌「サイト・アンド・サウンド」が1950年代から10年に1度実施している投票の結果です。

 最新の調査は2012年のものです。世界の映画批評家の選んだベスト3は、1位が「めまい」(1958年)、2位が「市民ケーン」(41年)、3位が「東京物語」(53年)です。(ちなみに、世界の監督による投票の1位は「東京物語」)。順位こそ違え、ここ数十年、アルフレッド・ヒッチコック、オーソン・ウェルズ、小津安二郎への評価は常に高いのです。

 投票している人は限られた人々ですし、世界中の作品が網羅されているわけでもありませんが、映画の古典的価値としての目安にはなるでしょう。

 ベスト3の作品はみな1940年代から50年代に制作されたものです。このころ、映画という芸術が黄金期を迎え、本来的な意味での古典を生み出したことを示しています。

 さらに興味深いのは、選ばれた作品がすべて、ある種の喪失の物語であることです。とりわけ、「市民ケーン」と「東京物語」は家族の物語ですから、世界の映画人にとって、近代の家族と喪失が普遍的なテーマであることがわかります。

 実際、これらの作品と全く違った設定に思える作品でも、同様なテーマが隠されていることも多いのです。

 ロシアの文豪レフ・トルストイの家出と最期の物語「終着駅 トルストイ最後の旅」(マイケル・ホフマン監督、2009年、独・露)もそうした作品のひとつでしょう。

 これまで悪妻の代表のようにいわれてきたソフィアの愛の真実を、喪失を通して描きます。トルストイを演じたクリストファー・プラマーと妻ソフィアを演じたヘレン・ミレンは、それぞれアカデミー賞の候補となりました。両名優の重厚にして洒脱な演技が描き出すのは、まさに近代の家族の愛と喪失の物語です。

 さて、トルストイの代表作を「戦争と平和」だと思う人も「アンナ・カレーニナ」だと思う人も「イワンの馬鹿」だと思う人もいます。
 最高の映画を決めるのはあなた自身です。
(2014年6月7日号掲載)

=写真=「終着駅 トルストイ最後の旅 コレクターズ・エディション」発売・販売元 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 1410円+税
 
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