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049 スイス・ツェルマット マッターホルン(上) ~「孤高の巨人」の絶景楽しむ~

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 若いころ、よく登った北アルプスの名峰・槍ケ岳は、別名「日本のマッターホルン」である。本家本元のマッターホルンは、スイスの南端ヴァレー州の奥まった山岳リゾート地・ツェルマット村が玄関口だ。

 スイス国鉄のブリークから登山鉄道に乗り換えて、ローヌ川の支流の渓谷を、ぐんぐんと高度を上げていく。上高地に向かうバスを電車に置き換えたような光景だ。ブリークが諏訪湖とほぼ同じ、標高690メートルで、終点ツェルマット駅は1620メートル。標高差はおよそ900メートルである。

 駅前には電気自動車が待機。ガソリン車の乗り入れを禁止し、環境に配慮している。乗り入れ許可の動きもあったが、禁止する運動も根強く続いている。

 村内至る所から、標高4478メートルのマッターホルンの雄姿が見られ「ああ、ついに来たな」という実感が湧く。

 この「孤高の巨人」の絶景を楽しむには、大別して3つのコースがある。手始めはスネガ・パラダイスの展望台経由で。村東にある1601メートルの麓駅から地下鉄の高速ケーブルカーに乗る。山岳鉄道というよりもハイスピード・エスカレーターのように、滑るように登り、わずか4分で着く。

 スネガ展望台から遠望できるマッターホルンは、蝶ケ岳か燕岳から見る槍ケ岳といったら分かりやすいだろうか。ここから初心者向けのトレッキングが始まる。近くにライ湖もあり、お花畑の多い下りをとろとろ歩いても1,2時間でツェルマットの村に着く。夏のスイスは夜の9時過ぎまで明るいから、遅くなっても大丈夫だ。

 ロープウエーを乗り継げば、展望台からウンターロートホルンの高台にも、簡単にアクセスできる。

 ツェルマットは「年間300日は好天だ」といわれるほど、日照に恵まれるが、雨天になると急に混む場所がある。その一つが山岳博物館で、注目すべきコーナーが「1865年7月14日」というスペースだ。切れたザイルが展示されていて、今も熱い視線が注がれる。

 メーンストリート沿いのホテルの一角に、マッターホルンに初登頂した男、ウインパーのレリーフがある。成功した帰りに7人のうち4人が滑落死。ウインパーと地元の親子だけが生還した。滑落死した原因が切れたザイルだったため、ウインパーは疑惑を持たれ、いまだに謎だ。井上靖の名作「氷壁」を彷彿(ほうふつ)させる。
(2014年9月20日号掲載)

=写真=ツェルマットからマッターホルンを望む
 
ヨーロッパ美の旅