03 黒姫駅 ~駅前の店舗に「寄り合う場」

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 黒姫駅(信濃町)前にある萬屋酒店には、毎週月曜日になると、コメや牛乳、野菜など様々な食品を手にした人たちが訪れる。同店2階に、食品に含まれる放射能の影響を調べる「黒姫駅前みんなの測定所」が開設されるからだ。

 「測定所」は2年前、東日本大震災の被災者支援に取り組む町民や、福島第1原発事故による食品への影響に不安を募らせていた母親らが結成。NPO法人から測定器を借り受け、誰でも気軽に立ち寄れる「測定所」の開設を目指していた時に、場所の提供を申し出たのが同店の店主、高橋憲さん(53)だ。

 14年前に店を改築した際、2階をフリースペースにした。「物を売るだけではスーパーやコンビニに対抗できない。僕らのような小さい店ができるのは、人が集まる場所をつくることだと思ったから」。商店会の会合やピアノ教室、ミニ発表会などに使われてきた。

 高橋さんは東京出身。昭和初期から続く同店の跡取り娘だった里栄さん(49)と結婚、20年前に黒姫にやって来た。
 「当時はまだ、駅前らしいにぎわいがあった」と振り返る。「駅前にも50軒くらい店があったけど、今は19軒。加速度的に衰退した」
 特に感じるのは、駅前を歩く人が減ったこと。以前は電車が到着すると、歩いて自宅に帰る人が駅前の店で買い物をしていった。しかし、今は車の送迎が中心。「電車を降りても、迎えの車でぴゅーっと帰ってしまう」 

 それでも、高橋さんは「駅前だからできることを探していきたい」と前を向く。
 測定には、町内外から食品を持ち込む人が集まって来る。1検体の測定にかかるのは30分。その間、「測定所」のメンバーと訪れた人たちの間で会話が交わされる。天候や山菜、作物の出来具合。孫や子どもたちの近況。初対面でも、井戸端会議のような和やかさだ。

 昨年までの2年間に行った測定は450件。通り過ぎるだけの駅前から、短い時間でも人々が出会い、腰を下ろして言葉を交わし合う場所へ―。黒姫駅前、月曜日の萬屋酒店は、そんな温かな場として定着しつつある。
     (村沢由佳)

検体としてたけのこの水煮を持ってきた人に説明をする高橋さん(左)

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黒姫駅
    (信濃町柏原)
 ◇標高671・8メートル
 ◇開業 1888(明治21)年
 ◇1日平均乗車人員 388人(2012年)
 開業時は「柏原駅」(1968年改称)。当時多くいた旧宿場町の運搬業や馬方は、失業の危機感から汽車を「人殺し」と呼んだという。豊野駅から337メートル、新井駅から612メートル高度を上げた頂点に当たり、かつては客車や貨車を引く蒸気機関車を重連にして急勾配を登り、この駅で切り離した。野尻湖や黒姫高原、戸隠のレジャー客・登山客の玄関口。
(村沢由佳)
(2014年7月19日掲載)