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055 グリンデルワルト周辺 クライネシャイデック ~日本食の弁当が似合う峠~

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 「小さな峠」を意味するクライネシャイデックは、ユングフラウヨッホや様々なトレッキングコースの十字路として名高い。目的地というよりも、通過地点になっている。

 しかし、ユングフラウなどの三名山だけでなく、氷河や池塘(ちとう)、眼下のグリンデルワルトとその上方のグロッセシャイデック(「大きな峠」の意味)やフィルスト、シーニゲプラッテなどを望める。
 景観もさることながら、ここでの一番の思い出は、15年前に初めて来た時、節約を兼ねて、アパートからおにぎりとちらしずしを持参したことだ。通り掛かった日本人ツアーの女性が、私たちの弁当を見てこう言った。

 「日本の人ですか。その弁当をどこで買いましたか」「アパートで作ってきたんです」「いいなあ、毎日チーズや肉ばかりで飽きてきちゃった」

 その気持ちはよく分かる。だから、長期滞在の時は、毎回日本食を用意する。スーパーには、日本米と同じコメも売っている。今年8月の旅では、クライネシャイデック駅裏のベンチで披露した。

 旅行用鍋でご飯を炊き、押しずしの型で作る。鍋も型も持参した。

 私以外の7人はユングフラウヨッホに向かった。私は都合があり、一人でクライネシャイデックで待った。この峠からのパノラマを独占した気分だった。ここからもスフィンクス展望台もよく見える。セントバーナード犬を連れた写真屋さんが、日本人などのツアー客の中央に、すまし顔で座らせながらシャッターを切っていた。

 ユングフラウヨッホから戻ってきた7人に作った弁当を広げて振る舞った。型で押した上にはシソと卵のふりかけ、つくだ煮も。のりで巻いたおにぎりと、サバみそ煮の缶詰も付けた。

 歓声を上げ、感心した様子の仲間たちから、いつ起きて作ったのか、どうやって作ったか―などと質問攻めになり、15年前のことを話した。ここはやはり、弁当がよく似合う峠だ。

 ユングフラウヨッホから帰ってきた仲間たちの「中国人ツアー客で大混雑だった」とか「世界一高い郵便ポストからはがきを出してきた」とか、楽しそうな会話が飛び交う。陽光を浴びて峠から見る氷河、アルプと呼ばれる草原や点在する民家がまぶしく光っていた。
(2014年12月20日号掲載)

=写真=アイガーの真下の峠にあるクライネシャイデックの駅舎とホテル
 
ヨーロッパ美の旅