
破傷風は、破傷風菌がつくり出す毒素によって、全身のけいれんや筋肉のこわばり、呼吸筋のまひなどを引き起こし、死に至る可能性が高い感染症です。
ワクチンで激減
破傷風菌は土壌や動物のふん便、環境中のちりやほこりに存在します。土いじり中に転んだ、古いくぎを踏んだ、動物(人間も含む)にかまれたなどの場合に、体内に侵入します。近年、日本では年間約40人の発症が報告され、患者の95%以上が30歳以上の成人です。
予防には、破傷風トキソイドワクチンの投与が有効です。日本では1952年に導入され、68年には予防接種法に基づく定期予防接種が開始されました。これにより破傷風の患者・死亡者数は激減しましたが、感染すると死の危険がある病気であることに変わりはありません。
子どものころに定期予防接種を受けた場合は、最終接種から約10年間は発症の防御レベルが保たれていると考えられています。成人になると事故や大きなけがなどの理由がなければ、ワクチンを接種する機会はほとんどないので、成人の多くは十分な破傷風抗体を持っていません。成人の破傷風患者が多いのはこのためです。
すぐに受診を
けがをしたからといっても、必ず破傷風菌に感染するわけではありません。病院に行くまでもない軽い擦り傷は、水道水でよく洗いましょう。破傷風に限らず、あらゆる細菌感染の可能性を低下させることができます。
事故やけがなどの際に破傷風ワクチンを打つかどうかは、「創」の状態と過去のワクチン接種歴を合わせて判断します。明確な投与基準はありませんが、破傷風に感染しやすいのは、受傷してから時間がたっている場合、創に土砂などの異物があり、壊死(えし)組織が付着していたり感染症を起こしたりしている場合、創の深さが1センチを超える場合などです。
創の部分の十分な洗浄と抗生剤投与、壊死組織の除去に加えて、けがの直後に1回目のワクチンを接種し、3~8週間後に2回目、2回目から6~18カ月後に3回目の接種を行うと、その後3年間は破傷風にかかる可能性が低くなるといわれています。
20歳を過ぎて、土壌に汚染された創を負ったり動物にかまれたりした場合は、すぐに病院を受診し、適切な手当てとワクチンの投与を受けることをお勧めします。
(2015年1月31日号掲載)
=写真=星野 夕紀(形成外科医師=専門は形成外科)