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076 金太郎 ~伝説は脈々と受け継がれて~

  きんたろう

   石原和三郎作詞
   田村 虎蔵作曲

 まさかりかついで きんたろう
 くまにまたがり おうまのけいこ
 はい しぃ どうどう はい どうどう
 はい しぃ どうどう はい どうどう

    ◇

 やはり、本当のことだった。信州にも、あの金太郎伝説の舞台があった。山懐に抱かれ、熊や鹿、猿などを友として育ったという、古くから語り継がれてきた怪童の物語である。

 初めは半信半疑だった。とにかく、行ってみないことには始まらない。まだ山に雪が来る前、長野市信州新町と大町市八坂の境にそびえる大姥山(おおばやま、1006メートル)へ向かった。

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 犀川沿いに国道19号を南下する。信州新町、大岡を抜け、八坂に入ってほどなく右折。すると、金太郎の絵を描いた看板が林道へと道案内しているではないか。どうやら間違いないらしい。

 小型の車がやっと通れる程度の、曲がりくねった細い道をたどる。行き止まりの狭い駐車場から先が、大姥神社本宮への参道だ。ここでも金太郎の絵看板が迎えてくれた。

 あしがらやまの やまおくで
 けだものあつめて すもうのけいこ
 はっけよいよい のこった
 はっけよいよい のこった

 思わず口ずさみたくなる快適な道は、神社までのほんのわずかで終わる。社殿わきからの登山道は、いきなり胸突き八丁の険しさだ。

 要所要所に鎖や針金が備え付けられている。それにしがみつき、足を踏ん張ってよじ登ること40分余り。雪道ならばどうにもならなかった。

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 頂上直下で再び看板の金太郎が現れ、洞穴の方向を指し示す。いよいよ伝説の舞台だ。そして驚いた。絶壁が大きくくぼんで空洞になっている=写真。一番高い天井部分まで10メートルはあるという。奥行き8メートル、幅は30メートルにも及ぶ。

 ここで不思議な力を持つ山姥(やまんば)が暮らし、生まれたのが気は優しくて力持ちの金太郎というわけだ。産湯に使ったとされる「産池」、へこんだ岩に寝かせたという「金太郎のつぐら」などもある。

 いずれも金太郎伝説に彩りを添え、もり立てている。山すそを巻く犀川の支流は、金太郎と熊にちなみ「金熊(かなくま)川」と呼ばれる。

 2番で「あしがらやまの やまおくで」と歌われる通り、金太郎伝説では神奈川県、相模の足柄山が名高い。坂田公時(さかたのきんとき)の故郷だ。

 しかし、同様の話は全国あちこちにあり、八坂の大姥山もこれに加わる。山また山の信濃にはもってこいの伝説ではないだろうか。

 洞穴から20分ほどで山頂だ。西南に北アルプスを遠望できる。ふもと安曇野の有明山(2268㍍)に住む八面大王と山姥が恋仲になり、金太郎が誕生した。物語は壮大に広がっていく。

〔坂田公時〕平安中期の武人で源頼光の四天王の一人。実在の武人をモデルにした英雄伝説が山姥伝説と結び付き、まさかりを持って腹掛けをした金太郎伝説になったとされる。
(2015年1月31日号掲載)

=写真=登山道を案内する金太郎の看板
 
愛と感動の信濃路詩紀行