074 全身麻酔 ~術後に軽い物忘れもせん妄は一時的変化~

 長野市民病院で、2013年度に全身麻酔で手術を受けた患者さんは2840人でした。3人に1人が65~79歳で、7人に1人が80歳以上でした。

 「物忘れ」原因は不明
 麻酔科の医師が、お年寄りの患者さんとご家族に麻酔の説明をする際に、「麻酔をされると、ぼけますか」と尋ねられることがあります。私は「人によって差はありますが、一時的に『物忘れ』になることはあります。ただし『ぼける』かどうかは、分かりません」と答えています。

 アメリカで行われた最近の調査では、全身麻酔で手術を受けた1週間後でも、30~50%の患者さんに軽い物忘れがみられるようです。お年寄りに多いのですが、若い人でも起こります。この原因は分かっていません。

 手術を受ける患者さんだけでなく、長い期間入院している患者さんの一部にも、「目の前の家族や病院の職員が誰だったか思い出せない」「今日が何月何日か分からない」「自分のいる場所が思い出せない」といった物忘れ、あるいは勘違いをする人がいます。

 さらに、ひどく興奮して、おかしな行動をする「せん妄」という症状を起こす人もいます。せん妄を起こした患者さんは、より物忘れが長く続くと報告されていますが、せん妄そのものは一時的な変化で、ほとんどが数日以内に治ります。

 頭を働かせて予防
 入院中の物忘れを予防するための方法として▽新聞を読む▽日記をつける▽パズルや塗り絵、計算をする▽家族や知人と長い時間を過ごす▽つらくても頑張って体を動かし、リハビリをする―などが勧められています。

 受け答えがはっきりしない、意識がぼんやりしている、まひ、けいれんなどが急に起きた場合は、脳梗塞や脳出血を疑う必要があります。健康な人に比べて、不整脈(特に心房細動)、高血圧、動脈硬化、糖尿病などの持病がある患者さんは、麻酔中の脳梗塞・脳出血の発生率が高いのです。なお、全身麻酔のせいで認知症になるとか、認知症が悪化することはありません。

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 麻酔科医師は患者さんの安全を第一に考え、危険な合併症の防止に取り組んでいます。心配なことがありましたら、医療機関に遠慮なくお尋ねください。
(2015年2月28日号掲載)

=写真=川上 勝弘(麻酔科科長=専門は麻酔科)
 
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