
JR飯山線の森宮野原駅。おとぎ話に出てきそうな美しい駅名が気になっていた。千曲川沿いをのんびり走るディーゼルカーに、始発駅の長野から乗った。
長野を出て約1時間。戸狩野沢温泉で1両のワンマンカーに乗り換える。長野を出る1日16本の下り列車は多くがこの駅止まりで、十日町方面へは8本が出ている。
森宮野原は県最北端の駅だ。県境まで約500メートル。駅名は、駅のある栄村森と、県境を越えた津南町宮野原の地区名を足したものだった。
駅舎は2階建ての物産館のような建物で、入り口に「森宮野原駅交流館」とある。待合室を兼ねて、喫茶店と、乾そばや猫つぐらなど特産品の売店がある。
駅前の衣料品店の女性によると、駅の利用者は両地区の人が半々。古くから県境をまたいでの交流が盛んで、両県に親戚が点在する家も多いという。
駅前には食堂、旅館、酒店などが並ぶが、所々に空き地がある。2011年3月12日に発生した震度6強の地震で、商店街では4店舗が全壊、廃業した。村の人たちは地震から1年間、片付けに追われた。衣料品店の女性は「落ち着いたら、静かになってしまった。みんな、この4年で余計に年老いちゃったよね」と寂しい顔をした。

空き地には、絵手紙を拡大したパネルが貼られている。優しい色合いと素朴な文字が、静かな商店街を明るくしている。
栄村は絵手紙の村だ。1995年、東京の少女の絵手紙展が村で開かれたのをきっかけに、村民と全国の愛好家の間で絵手紙を通じた交流が始まった。地震が起きると、絵手紙でつながる人々が支援に駆け付けた。村の人たちはその思いにまた絵手紙で応えた。交流は今も続いている。
商店街を外れると、豪雪地らしい独特の形をした民家が点在する。多くが3階建てで、屋根の頂点に「雪割り」と呼ばれる突起がある。
庭には池がある。各戸の池は水路でつながり、常に水が流れている。かいた雪を捨てて流すための池だと、役場職員が教えてくれた。「放り込んでおいた雪が一晩で消えてなくなりますよ」と言う。池にはコイが泳ぎ、花が植えられていた。
栄村の名物は、米粉のおやき「あんぼ」だ。森宮野原駅舎内の喫茶「ふきのとう」で注文すると、焼きたてが2つ出てきた。あんはあずきと、みそで炒めた大根菜。焦げ目のついた表面の香ばしさと、中のもっちりとした歯触りがたまらない。
帰りの列車に乗るため、レールをまたいで誰もいないホームに上る。背後の森で鳴くアブラゼミの声だけが響いていた。
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鉄道やバスに乗り、少しだけ遠い町を日帰りで訪ねます。
(竹内大介)
(2015年7月11日号掲載)
=写真1=空き地に絵手紙パネルが置かれた駅前商店街
=写真2=森宮野原駅のホームと駅舎