079 肺がん ~新しい治療薬が登場 状態に応じ選ぶ時代~

 日本では、がんが死因の第1位です。中でも肺がんによる死亡は増加し続けており、1993年以降、がんによる男性の死因で最も多くなっています。

 肺がんに対する標準的な治療は①外科治療②化学療法③放射線治療―の3つです。治療方針は、がん細胞の種類と広がり方のほか、患者の年齢や全身状態、合併症の有無などを総合的に判断して決定します。

 このうち化学療法は、抗がん剤を用いた治療のこと。従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)と、近年登場した「分子標的治療薬」の2種類があります。また、化学療法を行う対象も、がんが進行して外科治療が行えない場合と、外科治療の後、再発予防を目的に投与する場合の2つがあります。
課題だった副作用

 ここでは内科の立場から、手術ができない進行がんに対する化学療法について述べます。

 従来の殺細胞性抗がん剤は、「がん細胞を傷害し死滅させる」のが目標でした。しかし、がん細胞だけでなく、正常な細胞も傷つけてしまうという大きな欠点があります。

 よく知られているのは、血液を作る細胞、胃腸の細胞、髪の毛を作る細胞、腎臓や末梢神経などへの影響です。これにより、貧血や白血球減少、悪心や嘔吐(おうと)、脱毛、腎障害、手指のしびれなど、つらい副作用が出現します。これらは程度の差はありますが、投与した患者のほぼ全員に現れます。

がん細胞だけに作用
 一方、近年開発が進んできた分子標的治療薬は、「がん細胞だけに働き、がん細胞の増殖を抑制する」という効果が期待されています。副作用として皮疹、下痢、薬剤性肺障害などがありますが、従来の殺細胞性抗がん剤に比べ、副作用は一般に軽いとされます。治療効果にも優れ、従来の抗がん剤より生存期間が長くなったという報告が相次いでなされており、効果と安全性のバランスに優れた薬剤であるといえます。内服薬であることも利点で、高齢者や全身状態が少し悪化した人にも投与が可能です。

 ただ、全ての肺がん患者に分子標的治療薬が使えるわけではありません。適しているとされるのは(1)がん細胞の種類が「非小細胞肺がん」(中でも腺がん)の場合(2)特有の遺伝子変異がある場合(3)基礎疾患に肺線維症がない場合―です。小細胞肺がんの人や高度の肺線維症のある人などには使えません。遺伝子変異が認められない場合は、治療効果が低いとされています。
 いずれにせよ、分子標的治療薬の登場により、患者一人一人の状態に応じた最適な治療法(個別化治療)を選ぶ時代になってきたといえます。
(2015年7月25日号掲載)

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平井  一也(副院長・診療部長・呼吸器内科部長=専門は呼吸器、肺がんの画像および内視鏡診断と治療 呼吸器感染症)
 
知っておきたい医療の知識