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065 スイス ベルン ~旧市街に寓意的な噴水が~

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 大人も子どもも、スイスの首都がどこかを知っている人は少ない。チューリッヒか、ジュネーブか―。いやいや人口12万人の小都市ベルンです。

 ここには連邦議会議事堂や国立銀行など、中枢機関がある。北の経済都市チューリッヒとフランスに近い西にあるジュネーブの中間にある古い街。電車で行けば、アーレ川に架かる大きな鉄橋が見えたらベルンだ。

 名前の由来が面白い。この街に最初にとりでを造らせたのが、ツェーリンゲン公のベルヒトルト5世。狩りが好きだった公が最初に射止めた獲物がクマ(ベーレン)だった。その証拠にベルン州の旗にはクマが描かれ、アーレ川のたもとにはクマ公園があるほどである。

 ここの見どころは多い。真っ先に挙げたいのは、路面電車トラムが走る中心街クラム通りに入れば、すぐに気付く歩道。雨が多いベルンならではの工夫で、600メートルも連なるアーケード状のラウベンと呼ぶ雨よけの通廊(つうろう)が続く。雪の多い新潟県上越地方に見られる木製の雁木(がんぎ)と同じ庶民の生活の知恵だ。

 この足元にも驚かされる。アーケードの外側で遊歩道に面した半地下の蓋(ふた)付きの階段を降りると、そこはギャラリーやショップ。ライブハウスにも使われる。それぞれが独立した穴倉のような店舗だ。

 次に目が付くのは、メーンストリートなどに点在する「噴水」という名の水飲み場。11ある噴水のうち、色鮮やかな8基は名物の時計塔がある旧市街の通りにある。

 大半はハンス・ギーングの作品。旧約聖書が題材の「サムソンの噴水」は男の力強さを表し、全財産を寄付して病院を建てた女性の「アンナ・ザイラーの噴水」、子供に危険を警告する「子供喰いの噴水」、ベルヒトルト公をモデルにした「クマの噴水」などがある。

 とりわけ目隠しの女性を彫った「正義の噴水」は、「何ごとにも先入観を持たずに真実を見よ」と、公平を重んじたベルン人を象徴する寓(ぐう)意的な作品だ。

 もう一つ紹介したいのは、あの相対性理論を発表した天才物理学者、アインシュタインの家。連邦特許局に勤めながら、論文を書き上げた記念すべき家だ。

 彼は大好きな日本に向かう機上でノーベル物理学賞の報告を受けたという。ドイツでヒトラーが独裁政治を始めると、ユダヤ人の彼は、アメリカへ亡命。ナチスに先駆けてアメリカに原爆の開発を迫った。その結果が、広島と長崎への原爆投下となった。心を痛めたアインシュタインが「核兵器廃絶」を訴え続けたことも忘れてはならない。
(2015年8月1日号掲載)

=写真=通りに噴水がある旧市街
 
ヨーロッパ美の旅