強い薬を飲むと胃をやられる―そんな話を聞いたことはありませんか。「強い薬」というわけではありませんが、「非ステロイド消炎鎮痛剤(NSAIDs=エヌセイズ)」という薬が、胃・十二指腸潰瘍や小腸・大腸炎といった消化管傷害を引き起こすことがあります。
NSAIDsは、抗炎症作用と鎮痛作用があるため、解熱鎮痛薬として風邪の症状などに日常的に処方される薬です。
増える処方機会
NSAIDsによる消化管傷害は、胃では粘膜を直接傷つけるのに加え、粘膜の防御能力を弱めてしまうために引き起こされると考えられています。NSAIDsを内服することで胃潰瘍などを発症し、吐血・下血が起こるリスクは、内服していない場合の4倍に上るという報告があります。
また、NSAIDsの一つである低用量アスピリン(LDA)は、抗血栓作用があるため、脳血管障害、虚血性心疾患などの予防薬としても処方されています。高齢者人口の増加に伴い、LDAを含むNSAIDsが処方される機会が増えており、それに起因した消化管傷害も増加しています。
症状は、多くは腹痛や出血です。NSAIDs自体に鎮痛作用があるため、発症しても痛みを感じていない場合がありますが、吐血、下血(黒色便)や血便(赤い便)は胃腸からの出血のサインです。
もし、NSAIDsの服薬中にこれらの症状がみられたら、早めに内科を受診し、血液検査と胃カメラを受けましょう。部位によっては、カプセル小腸内視鏡検査や大腸内視鏡検査を行うこともあります。
NSAIDsによる消化管傷害の治療は、まずNSAIDsの服用を中止することです。ただし、中止の指示は主治医に確認してください。また、胃・十二指腸潰瘍の場合は、抗潰瘍薬(PPI=プロトンポンプインヒビター)を投与します。NSAIDsを中止することができない場合でも、PPIを投与します。
同時服用に注意
NSAIDsによる胃潰瘍は、NSAIDsの種類や量によって発生率に差があるため、高用量の薬や複数のNSAIDsを同時に服用することは避けましょう。アスピリンの消化管傷害は用量とは無関係なので、「低用量」であるからといって油断はできません。

複数の医療機関にかかっている場合、知らないうちに数種類のNSAIDsを内服していることもあります。お薬手帳を見直してみて、こうした可能性があると思ったら主治医や薬剤師に尋ねてみてください。
(2015年8月29日号掲載)
=写真=関 亜矢子(消化器内科科長=専門は消化器、内視鏡)