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067 ロワール古城巡り トゥール ~拠点に魅力あふれる大聖堂~

 フランス観光の名所と言えば、ロワールの古城巡りが定番の一つだ。その古城巡りの拠点がパリの南西220キロにあるトゥールだ。

 サントル・ロワール地方の最大都市で、15世紀には、一時的だが、首都になったこともある古都。8世紀にカール大帝がこの地に多くの学校を建てたことから、今も学校や研究機関が多い。14万人ほどの人口の4分の1が学生というおしゃれな雰囲気が同居する。

 ここを訪れたのはこの春で4回目。トゥール出身で「ゴリオ爺さん」や「谷間の百合」で知られるフランスの文豪・バルザック(1799~1850年)の作品には何度も登場する。晩年の未完成の大作「人間喜劇」の舞台となった大聖堂「サン・ガシアン大聖堂」がお勧めスポットだ。

 13世紀に着工し、16世紀に完成したこの大聖堂は、私が見た大聖堂の中で三指に入る。だが、観光客はまばら。日本人ツアー客と出会うことはない。理由の一つは、住宅街の中にあり、外観が美しい正面には細い生活道路が走っており、駐車場のスペースもない。全容を写真に収めようとしても、40メートルの高さしかなく、周囲の住宅に遮られて入りきらない。

 正面はゴシック初期から後期の様式が入り、正面扉の上部にある半円形の細かい装飾は見事。内陣北側の交差廊のステンドグラスは、夜空や冷たさをイメージした青のデザイン。逆に南は暖かさを意味する赤で、ロマネスク様式の傑作とうたわれている。

 当時の王・シャルル8世の子で、幼くして他界した2人が納められた石棺も、イタリア・ルネサンス初期の彫刻で見どころだ。

 特に注目したいのは聖マルタンの起こした奇跡を描くステンドグラスだ。マルタンは4世紀ローマの英雄。ある日、寒さに凍えた貧しい男を不びんに思い、自分の赤いマントを半分に切ってパンと共に与えた。その夜、赤いマントをまとったキリストが夢枕に現れた。

 彼はこれをきっかけに修道僧から司教となり、人の心から悪魔を取り除く守護聖人となった。マルタンは、殉教をせずにあがめられた欧州最初の聖者だ。内陣の絵画やステンドグラスには彼が起こしたという奇跡を紹介している。彼の死後も、墓に触れると病が治るという言い伝えがある。

 この大聖堂の最大の見せ場は夜。周囲の住宅環境を配慮して、地味なオレンジ色にライトアップされた外観は、えも言われぬ不思議な魅力を伝える。2回目に訪れた夜は、霧がかかっていて、風で見え隠れする幻想的な光景は忘れられない。

 以来、私はいつも帰り際に何度も見返るので、サン・ガシアン大聖堂を崇拝とユーモアを込めて、大天使ミカエルならぬ「見返る大聖堂」と呼んでいる。

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 次回からロワールの古城を6カ所選んで紹介しましょう。
(2015年9月5日号掲載)

=写真=ライトアップされたサン・ガシアン大聖堂

 
ヨーロッパ美の旅