記事カテゴリ:

19 体験学習 ~「古典芸能を身近に」 子どもたちへの願い~

19-nakamura-1010p.jpg
 室町時代から日本の古典芸能として親しまれている能。これからの長野、日本、世界を担う子どもたちに能を少しでも理解し身近に感じてもらえれば...。そんな願いを込めて、2000(平成12)年10月に上田市材木町の市立東小学校で能の体験学習を行いました。

 指導したのは能の同門会「淑宝会」の上田市代表・竹田忠一さん、メンバーの宮川克巳さん、山岸照武さん、宮沢正幸さん、三宅礼子さんと私の計6人。お孫さんが同校に在学中の竹田さんや小中学生に剣道を教えていた宮川さんから「子どもたちに本物の能を体験させたい」との提案を受けて実現しました。

上田東小で「羽衣」
 たくさんある能の中から学習の題材に選んだのは、清らかで美しい「羽衣」です。同校の体育館に集まった6年生ら約100人を前に、まず羽衣について話しました。

 漁師が駿河(静岡県)の三保の松原で美しい衣を見つける。家の宝にと持ち帰ろうとするところに天女が現れ、返してくれたお礼に優美な天女の舞を舞いながら天に昇っていく―という内容です。

 ステージの上で物語の一場面を私が舞い、メンバーが地謡(じうたい)を謡いました。続いて子どもたちにステージに上がってもらい、仕舞(しまい)の所作などを教えました。

 子どもたちは履物を脱ぎ、扇を手に持ち、やや膝を曲げて背筋を伸ばした姿勢。そして、かかとをほとんど上げずにゆっくりと歩くすり足の練習。体験する姿は皆、真剣そのものでした。仕舞の練習では、床を足でドンドンと踏みならす足拍子や、後退しながら両腕を左右に広げる「ヒラキ」を体験しました。

 また、般若や女性、童子の本物の面(おもて)を顔に着けたり、扇の持ち方や開き方を教えてもらったり、すべてが初めて経験することばかりです。男の子も女の子も面を着けた姿で向き合って「怖い」「かっこいい」などと、大はしゃぎでした。何人かが「土蜘(つちぐも)」の舞台で使われるクモの巣を投げ、白い紙テープがパッとステージに広がると、歓声が沸き大喜びでした。

 独特の節回しの謡曲も大声を出して練習しました。音符のない、普通の音楽と違った声の出し方や微妙な間合いの取り方に興味を抱いた子どももいたようです。

東京や千葉でも
 体験学習に参加した子どもたちは「能を身近に感じた」「迫力があって面白かった」「面を着けたら周りがよく見えず驚いた」などと感想を語ってくれました。こんな声に目を細めて、「古典芸能に親しんで大人になってほしい」と語っていた竹田さんの姿が今も忘れられません。

 あれから15年。竹田さんと山岸さんは既に他界されました。お二人の熱い思いがかなって、体験学習に参加した子どもたちが日本の文化を少しでも感じ取って、それぞれの人生を歩んでくれている―と、私は強く信じています。

 このほか能を通して子どもたちとふれ合ったのは、小学校では東京都大田区の区立南蒲(なんぽ)小や千葉県八千代市の市立萱田小、大和田南小、みどりが丘小などですね。また同市立八千代台西中学校では09年から今日まで特別講座の講師を務めています。
(聞き書き・船崎邦洋)
(2015年10月10日号掲載)

=写真=体験学習で能面を着ける上田東小の子どもたち(信濃毎日新聞社提供)

 
中村孝太郎さん