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20 能の話 ~将軍足利義満が後援 舞台をのぞいてみて~

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 シリーズも後半になりました。能になじみのない方もいると思いますので、ここであらためて能についてお話しします。

 「能楽の聖典」と言われる本があります。室町時代に世阿弥が著した最初の能の理論書が「風姿花伝」です。これはよく知られているでしょう。能の修行法や心得、演技・演出、能の美学などを解説していますが、人生論としてもとても素晴らしい書です。実用面での一例を挙げると、生涯の稽古のあり方を7歳から50歳代まで10歳ごとに詳しく説き明かしています。

中国の散楽がルーツ
 能の歴史は散楽(さんがく)という滑稽物まねや曲芸などが、奈良時代に唐から伝わったのが始まりと言われています。平安時代には「猿楽」と呼ばれ、庶民にも人気の芸になりました。後に歌舞劇系は「能」、せりふ劇系は「狂言」へと分かれていきます。

 室町時代に観世、宝生などの4流と大和猿楽ができ、京都の新熊野(いまくまの)神社で観阿弥・世阿弥親子の舞台を見た将軍足利義満が大変気に入って、絶大な後援をしたそうです。豊臣の時代も幕府に保護され、徳川の時代には武家社会に受け入れられましたが、格式が高くて庶民には親しみにくいものでした。

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 能はシテ方、ワキ方、狂言方、囃子(はやし)方の4種類の役職で演じられます。シテ方は観世、宝生、金春(こんぱる)、金剛、喜多の5流があり、地謡なども担当します。

 ワキ方は宝生、福王、高安(たかやす)の3流。シテは主役のことで、漢字では「仕手」(仕まつる人)または「為手」。ワキはシテの特性を引き出す相手を演じる重要な役であり、「脇」と書きます。狂言方は大蔵と和泉の2流。囃子方の笛、小鼓、大鼓、太鼓にもそれぞれ複数の流派があります。

 能は夢幻能と現在能に分かれます。夢幻能は神仏や妖精を扱ったもの。主人公が亡霊として登場し、生前の自分を回想します。主に2場に分かれ、前場(まえば)は仮の姿、後場(のちば)は霊などで登場します。これに対し現在能は、多くの人物が生きている人間として登場します。

 曲目は200曲以上。古事記や万葉集、源氏物語、源平盛衰記などを基にしたものが多いですね。面(おもて)と呼ばれる能面も200種以上。演者は役どころによって面と装束を使い分け、喜怒哀楽を生きているように表現します。

全国に60近い舞台
 能楽師の全国的な組織として「公益社団法人能楽協会」があります。各流の能楽師が所属し、現在の会員は1200人余。それぞれ能の舞台活動や普及に励んでいます。私も会員の1人です。

 主な能舞台は東北から九州まで、全国に60近く。長野から近い関東では国立、観世、宝生、矢来(やらい)、喜多六平太記念、セルリアンタワー、横浜の各能楽堂。ほかに梅若能楽学院会館、銕仙(てっせん)会能楽研修所舞台、鎌倉能舞台などがあります。

 これらの舞台の中には仕舞や謡の発表会(夏のゆかた会など)の場に開放している所もあり、プロの能楽師も出演しています。たいていは入場無料です。機会があればのぞいてみてください。
(聞き書き・船崎邦洋)
(2015年10月17日号掲載)

=写真=能の舞台で使う般若の面(左)と舞扇
 
中村孝太郎さん