かつて小児科の日常診察では、気管支ぜんそく、肺炎、胃腸炎、腎炎などの病気が多くみられました。1990年代から、頭痛や腹痛などの症状を訴えるものの、検査しても異常がなく、結果的に学校を休みがちとなる子どもが増えてきました。
ストレスで悪化
このように、明らかな身体の原因が認められないにもかかわらず、頭痛、腹痛、体の痛み、疲労感、吐き気、食欲不振などを訴え続ける状態を「不定愁訴(ふていしゅうそ)」といいます。
不定愁訴の特徴として①症状が複数の臓器にわたり、慢性の経過をたどる②診察所見と症状が合わない③検査しても身体疾患が明らかにならない④症状は日常生活や人間関係に影響を及ぼし、ストレスで悪化する―などがあります。不定愁訴は、心の問題と密接に関係していると考えられます。
「腹痛」は幼児期から思春期まで一定して現れる一方、「頭痛」や「だるい・疲れやすい」は、小学校高学年から学年が進むにつれて増加する傾向にあります。中学生で心の問題を抱えている子どもは、実に7割近くが疲労感を訴えています。
症状と付き合う
不定愁訴に対する診療の原則は、まず身体疾患を除外することです。注意深く診察し、必要に応じて血液検査や超音波、CTなどの画像検査を行います。
乳幼児期は、食欲不振や嘔吐(おうと)などの症状から保護者自身が不安になっていることも多いようです。診察や検査で問題がなければ、心配し過ぎないで様子を見ることです。
学童期は、集団生活による不安や緊張、過剰な適応で、子どもが息切れしていることが多く、ゆっくりと休ませることも必要です。ただ、背景に学習障害や自閉症スペクトラムなどの発達障害がある場合があります。学習面や行動面に関して、学校の先生と連絡を取り合うことも必要です。
中高生になると、不定愁訴は約9割にみられるともいわれます。思春期になり友達や他人を意識することは自分自身を意識することでもあり、自身の身体の変化や症状に過敏になるのです。女子の場合は婦人科の症状にも注目しましょう。

子どもを取り巻く環境に目を向け、子どもの立場で考えること、必要に応じて発達や心理の専門家に診てもらうこと、結果を急がず、信頼できる先生と一緒に症状と付き合っていく姿勢が大切です。
(2015年10月17日号掲載)
=写真=青沼 架佐賜(小児科部長=専門は発達、神経、循環器、心身症)