記事カテゴリ:

24 能の「種まき」 ~中学特別講座を担当 長野や山口県で稽古~

24-nakamura-1114.jpg
 これからの能を思う時、気掛かりなことがあります。それは謡や仕舞をたしなむ人が減る傾向にあるということです。高齢化が進む社会の波は能の世界にも押し寄せています。

 長年稽古を続けてきたお弟子さんは年齢とともに足腰が弱り、声が出なくなり、元気でも老老介護で忙しくなる。こうしてやめていかれる人が多いですね。一方、新しく始める人はなかなか入ってこない。会社などの謡曲の会も減っていると聞いています。

 こんな状況の中で、能楽師の一人として私は何をなすべきか―。ただ手をこまねいているだけではなく、先を見据えて、力の及ぶ限り種まきをしようと思っています。

県内6地域を回る
 八千代市の市立八千代台西中学校では、校外講師を招いて3年生を対象に日本文化の特別授業を開いています。茶道、華道、書道、囲碁、将棋、絵手紙など。これらを実習形式で教えるのですが、私は2009(平成21)年から10人規模の能楽講座を担当しています。

 講座は5月から11月まで月2回。講座を受けた生徒さんたちは、私の自宅の舞台で開く秋の淑宝会に大人の会員と一緒に出演。校長先生や父母の方々の前で謡などを披露しています。5人ほどの女の子は高校に進学後も稽古を続けており、「能が楽しい」「もっといろいろなことが知りたい」と話しています。

 私の能の同門会「長野県淑宝会」では毎月3日間の稽古をしています。私は須坂をはじめ黒姫、豊野、長野、岡谷、上田の6地域を回り、5月から10月は自宅の千葉から車で、ほかの月は鉄道で。電車の時は最寄りの駅に会員の方が車で迎えに来てくれます。稽古は謡だけの人、謡と仕舞の人。いずれも私とお弟子さんとの一対一のマンツーマンですね。

 長野で初めて稽古に仕舞を取り入れ、それが根付きました。また謡の稽古でも新しく試みたものがあります。それは謡で最も難しい地拍子(じびょうし)を教えたことです。

 地拍子とは謡のリズムの法則のことで、8拍を一つの単位としてリズムに乗る拍子合(あい)の時に謡います。リズムを重視して躍動的に変化を持たせて謡うツヅケ謡(うたい)と、すんなり謡う三ツ地謡があります。

 ツヅケ謡は例えば「鶴亀」の「庭の砂は金銀の」は「に~わの~いさご~はきんぎん~の~」と謡います。謡本には書かれておらず、師匠が口伝で教えない限り謡えません。

全国大会で成果発表
 全てのお弟子さんに教えましたが、途中で辞退する人が相次ぎました。それでも10人近くがツヅケ謡を謡えるようになりました。郷里の長野で仕舞と地拍子の稽古が定着したのは、会員の理解と熱意があったからこそと感謝しています。

 山口県には3カ月に1度、2泊3日で山陽小野田市と周南市に稽古に出掛けています。お弟子さんたちは毎年2月に東京・水道橋の宝生能楽堂で開く「淑宝会全国大会」で、関東、長野の会員と合流して稽古の成果を発表しています。

 プライベートな楽しみといえば、私ども夫婦と2人の娘家族を交えた総勢10人による旅行や食事会でしょうね。趣味はゴルフです。下手の横好きですが、舞台や稽古の合間に千葉周辺や軽井沢のゴルフコースでプレーを楽しんでいます。
(聞き書き・船崎邦洋)
(2015年11月14日号掲載)

=写真=お弟子さんとマンツーマンで稽古(左が私)=7月・長野市内で
 
中村孝太郎さん