「手掌(しゅしょう)多汗症」は、腋(わき)の下や手のひら、足の裏などに、異常に多量の発汗をしてしまう病気です。単なる「汗をかきやすい体質」と異なり、日常生活に支障をきたすほどの発汗が、手のひらに顕著に見られる場合を手掌多汗症と呼んでいます。10~30代に多いとされています。
理解されず悩む人も
具体的な症状は、「運動したわけではないのに、手を動かすと汗が飛び散る」「本のページが汗でぬれて破れてしまう」「汗のために滑ってしまい、物を落としやすい」などです。患者さん本人にとって非常につらい症状ですが、病気と認識されずに「汗っかき」「あがり症」などのレッテルを張られ、悩みながら生活するケースも多いようです。
緊張した時に手に汗をかくことは誰でもありますが、手掌多汗症の場合、精神的刺激や緊張がそれほど強くなくても多量に発汗してしまうのが特徴で、寝ている時の発汗量は少ないようです。
原因ははっきり解明されていませんが、胸の中にある交感神経(自律神経の一つで、新陳代謝を活性化する神経)の機能亢進状態が続くことで汗の分泌が活性化され、多量に発汗するといわれています。
交感神経の働きを遮断
治療は、薬物療法で交感神経の働きを遮って発汗を抑えたり、精神安定剤を用いることもあります。しかし、薬物療法は手掌多汗症の根本的な治療にはならず、繰り返し治療する必要があります。
根治を目指す外科的な治療法としては、胸部交感神経節切除術があります。手掌多汗症には胸部の交感神経の働きが関わっているので、この交感神経を切除し、働きを遮断しようとする治療です。
交感神経は、胸の背中側に左右1本ずつあります。手術は、全身麻酔をし、胸腔(きょうくう)鏡という細いカメラを胸の中に入れ、交感神経を切除します。手術にかかる時間は1時間程度で、術後は数日で退院できます。

手術後はすぐに手の異常発汗が減少しますが、冬季には手が乾燥し過ぎる場合があるようです。また、手の発汗が減少する代わりに、胸背部や腹部、大腿(だいたい)の発汗量が多くなる「代償性発汗」という現象もみられます。代償性発汗は個人差が多く、手術前にはどの程度出現するのか予測はできませんので、手術するかどうかは慎重に判断しています。
(2015年11月7日号掲載)
=写真=有村 隆明(呼吸器外科科長兼乳腺外科科長=専門は呼吸器)