「鼠径(そけい)」は足の付け根の部位のことで、「ヘルニア」とは体内の臓器が正常な位置から逸脱した状態のことです。鼠径ヘルニアは、通常は腹腔(ふくくう)内にある臓器が、鼠径部から腹腔外に脱出した状態をいいます。
成人も加齢で発症
脱出する臓器は小腸が多いため、「脱腸」ともいわれます。小児の疾患というイメージを持つ人が多いかもしれませんが、成人にも多い疾患です。小児の場合は先天的な原因で起こるのに対して、成人の場合は加齢に伴って体を支えている組織が弱くなることが原因と考えられています。おなかの内側から見ると、鼠径部に落とし穴ができており、この穴に小腸の一部が落ち込むようにして外側へ脱出します。
症状は、初めに足の付け根にピンポン球を半分にしたような膨らみとして発症することが多く、次第に大きくなります。上から押さえるといったんは引っ込みますが、穴が開いているので、すぐにまた出てきてしまいます。大きくなると違和感や痛みが現れてきます。腸が戻らなくなってしまう「嵌頓(かんとん)」を起こすことがまれにあり、緊急手術が必要になることもあります。
腹腔鏡下手術が普及
治療方法は、手術以外にありません。弱くなった部位を「メッシュ」という人工の布で補強する手術が一般的です。
腰椎麻酔(下半身だけの麻酔)で行う手術が主流ですが、最近では全身麻酔で行う腹腔鏡下手術が普及してきました。傷が小さくて済み、術後の痛みも軽いため、当院では腹腔鏡下手術を優先的に行うことにしています。

詳しい手術の方法として、腹膜を切らないTEP法と、腹腔内にメッシュを置くTAPP法の2種類があり、患者さんの状態に合わせて方法を選択しています。急いで治療する必要はありませんが、嵌頓を起こす前に、手術することをお勧めします。
(2015年11月21日号掲載)
=写真=外科科長(兼)消化器外科科長=専門は消化器