
新潟県の第三セクター・北越急行の「ほくほく線」は、信越線・犀潟(上越市)から飯山線・十日町を経て、上越線・六日町まで山間地約60キロを結ぶ。
3月まで特急「はくたか」が在来線最速の時速160キロで走り、越後湯沢で上越新幹線に接続。北陸と首都圏を結ぶ最短ルートだった。北陸新幹線延伸で短絡線の役目を終え、売り上げの9割を稼ぎ出したという13往復の特急は廃止された。
現在走るのは、1~2両編成の各駅停車を中心に上下20本。乗り入れている直江津を出て約5分、犀潟で分岐するとスピードを上げ、初めは広い水田地帯に真っすぐに敷かれた高架線を、その後は山地に入って連続するトンネルを走る。
この電車は速い。「はくたか」を含む高速ダイヤに対応するため、最高時速110キロ、加減速性能を高めた車両を使う。ひなびたローカル鉄道の風情はない。
犀潟から約25分、「まつだい」駅で降りた。松代(まつだい)は十日町市西北部の山あいの町。東西に川が流れ、南北に山が迫る地形は、小川村辺りに雰囲気が似ている。駅は国道253号沿いにあり、道の駅も併設。ひらがなの駅名について、観光案内所の女性は「長野の『まつしろ』と間違われないため」と話した。
松代市街地北寄りの山手には古道「松之山街道」がある。上越を拠点にした上杉謙信は、この道で関東出陣を繰り返したという。松代はその宿場町だった。中心街には今も旅館や酒店などがぽつりぽつりとあるが、通りを歩く人はあまりいない。
松代に来たのは、現代アートを見るためだ。十日町市と隣の津南町では、「大地の芸術祭 越後妻有(つまり)アートトリエンナーレ」が3年ごとに開催。ことしも7月から9月にあり、海外からを含め51万人が来場したという。
期間外にも、常設のアートを楽しめる。まつだい駅南の一帯に、作品が点在。棚田の一角に金属製の実験的なアートがたたずむ。人けのない杉林の中に本棚と椅子の作品が置かれ、実際に本を読むこともできる。里山の自然と現代アートのコラボレーションが面白い。
作品を訪ねながら山を登っていくと、頂上に「松代城」がある。中世の山城跡で、今は昭和に造られた天守が立つ。色づき始めた周囲の山々と、松代の街を一望できた。
国道沿いに、どぶろくを売る行政書士事務所があった。構造改革特区の一つ「どぶろく特区」の第1号で、自家栽培のコシヒカリだけで造っているという。
土産にし、帰宅後早速開けた。かすを舌の上で転がすと、コシヒカリの甘味が広がる。米どころの味を堪能した。
(竹内大介)
(2015年11月7日号掲載)
=写真1=まつだい駅近くを走るほくほく線電車
=写真2=杉林の図書室はドイツの作家の作品