
北軽井沢を訪ねた。「軽井沢」と名前が付いているが、実は群馬県吾妻郡長野原町にある。かつて長野県の軽井沢と群馬県の草津温泉を結ぶ「草軽電気鉄道」が通り、廃線となった今も駅舎が残っている。
高峰秀子さん主演の映画「カルメン故郷に帰る」や三国連太郎さんのデビュー作「善魔」(共に木下恵介監督、1951年)に同電鉄が登場し、ロケ地となった「浅間牧場」も近くにある。現在は別荘地として夏にはにぎわいをみせる避暑地だ。
草軽電鉄は1915(大正4)年、新軽井沢~小瀬温泉に「草軽軽便鉄道」として開業。26(大正15)年に草津温泉まで延伸し、55・5㌔を約3時間半で結んだ。
北軽井沢駅は18(大正7)年開業。当時は「地蔵川」という駅名だったが、28(昭和3)年に法政大学がこの地に大学村を開村。同大が新しく駅舎を建築、寄付したのを機に翌年「北軽井沢」と改名した。今年はちょうど同鉄道の開業100周年だ。
軽井沢駅から草軽交通バスで北上。白糸ハイランドウェイから国道146号に合流し、峠を越えてなだらかな浅間高原を下る。しばらくすると、浅間牧場バス停に到着した。

牧場入り口の小高い丘を登ると、突然視界が開けた。目の前に広がる空と山々、左後ろに浅間山がそびえ立つ。180度の大パノラマだ。約800ヘクタールという広大な家畜育成牧場で、開放エリアは観光客が自由に散策できる。
「カルメンの木」という看板があった。丘の上に1本、目立つ木がある。「カルメン―」の劇中で笠智衆さんが演じた校長先生が、主人公カルメンを探しに行くシーンで使われた。ここで木下監督をはじめ、多くのスタッフがのびのびとロケをしている様子が浮かんだ。
再びバスに乗り北上、北軽井沢バス停に到着。目の前に赤い屋根の旧北軽井沢駅舎が往年の姿でたたずんでいる。駅舎は撞木造(しゅもくづくり)に似たT字型で、善光寺を模したともいわれている。プラットホームもあり、ちょっとした鉄道史跡だ。

構内には草軽電鉄を走っていた電気機関車「デキ12形」の木製モニュメントがある。地元の産官学協議会が「同地のシンボルに」と再現した。高く伸びた集電装置が昆虫の角に見える姿から通称「カブトムシ」と呼ばれ、営業当時から人気があった。
次はぜひとも草軽鉄道の廃線跡を歩いてみたいと思いながら、帰途に就いた。
(森山広之)
(2015年12月5日号掲載)
=写真上=浅間牧場からの眺め。左に浅間山、右に四阿(あずまや)山が見える。中央の木の後方に「カルメンの木」がある
=写真下=旧北軽井沢駅舎と機関車のモニュメント