記事カテゴリ:

106 御柱木遣り唄 ~木遣り高らかに巨木が動く~

106-utakiko-0416p1.jpg
御柱木遣り唄
 (上社)
御小屋の山の樅の木は里へ下りて 神となる
 (下社)
奥山の大木 里へ下りて 神となる

    ◇

 諏訪大社の御柱祭を例えるならば、開幕から閉幕まで一大叙事詩といっていい。大勢の見物客が詰め掛ける山出し、里曳きが目玉ではある。けれども、祭りそのものは、ずっと前から始まっている。

 御柱は、人里遠く離れた山奥でモミの巨木を切り倒し、人の力だけで延々引きずって運ぶ。そして、上社の本宮と前宮、下社の秋宮と春宮4つの社殿、それぞれの4隅に建てる7年目ごとの祭事だ。

 叙事詩の序章は、どのモミの木を御柱用に選ぶか、その見立てで始まる。念入りに仮見立て、本見立てと2年がかりで実施し、上社は祭り本番の2年前から、下社は3年前から執り行っている。

 こうして社殿4つに4本ずつ、計16本のモミの巨木がめでたく切り出されることになる。

106-utakiko-0416m.jpg
 ここまでが序章とすると、ここから始まる山出しでクライマックスへと向かう。険しい山道には、坂があり、谷があり、川も渡る。長さ17メートル前後、重さ10トンもの大木だ。その1本1本に2千人、3千人もの大集団が一つになって曳いていく。

 いかにして全員の力を結集させるか―。高らかに遠くまで響き渡って盛り上げる木遣りの役割が大きい。「歌う」と言わない。「鳴く」と称するほど鍛え抜いた声に促されてこそ、巨木は動く。

 銀のおんべに金の声 心そろえてお願いだ

 木落としあり、川越しありの山出しは勇壮そのもの、危険と隣り合わせのスリルに富む。比べて5月、里曳きは一転して優雅な装いに変わり、華やかに第2のクライマックスを演出する。

 例えば、あでやかに騎馬行列が繰り出す。趣向を凝らした長持ち行列が通る。楽しさいっぱいの花笠踊りが続く。そしていよいよ、フィナーレの建御柱だ。モミの木がゆっくりゆっくりワイヤやロープで引き立てられ、真っすぐ天を向く。もう動くことはない。まさに神となったのだ。

 皆さま ご無事でおめでとう

 2016年の今回、4月2日の上社山出しの初日、先頭を行く「本宮一」の御柱と前後しながら御柱街道を歩いてみた。JR茅野駅前からシャトルバスに乗り、終点で降りて程なく「よいさ よいさ」の掛け声が、どよめきとなって聞こえてくる。

 民家の屋根をかすめるように抜ける難所「穴山の大曲」を無事に通り越したところで出合った。巨大な人の集団が発するエネルギーはすごい。怖くなるくらい迫力がある。

 沿道では飲食などのサービスをする「おもてなし」の伝統が息づいている=写真下。諏訪湖一円の総力戦を肌身で感じた。

 〔諏訪大社〕4つのお宮からなる。諏訪市中洲に上社本宮、1.5キロ東寄りの茅野市宮川に上社前宮。諏訪湖を挟んで北西、下諏訪町上久保に下社秋宮、同じく下之原に春宮がある。
(2016年4月16日号掲載)

=写真1=熱気に包まれた諏訪大社御柱祭
 
愛と感動の信濃路詩紀行